自己肯定感が高いから成功するのか。それとも、成功するから自己肯定感が高まるのか。
「どちらが先か」と聞かれたら、私の答えは決まっています。
先に来るのは成功、正確には「小さな行動の結果」のほうです。
ただし、大きな但し書きがひとつ付きます。
成功が連れてくる自信と、自己肯定感は、実は別物なんです。
これは気分の話ではありません。2003年、心理学の大規模レビューが「自己肯定感を高めれば成果が上がる」という通説を検証しました。結果は、ほぼ否定です。
そして私自身が、この問いの実験台のような人生を生きてきました。自己肯定感が低いまま、先に成果が出てしまった人間として。
この記事では、自己肯定感と成功の関係を、研究の結論と私の実感の両面から整理します。目指すのは、自信を「追いかける」生き方から、「ついてこさせる」生き方への転換です。
自己肯定感が低いまま、成果が出てしまった
先に、実験台の報告からさせてください。
私のキャリアは、決して自己肯定感の高さから始まっていません。プロボクサーを引退し、フリーターを経てネットビジネスを始めたとき、タッチタイピングすらできませんでした。
「自分ならやれる」という確信があって動いたのではないのです。順序は逆でした。
動いたから、小さな結果が出た。その結果が、「これなら自分にもできそうだ」を少しずつ育てた。
2021年に、私はX(旧Twitter)でこう書いています。
頑張って成果出りゃ自信になるし頑張らずに成果出なけりゃ悔いが残る。仮に頑張って成果出なくても失敗は残る。この失敗が若者の特権。重ねても致命傷にならんうちの失敗はキャリアという武器です。
あ…頑張らずに成果出せたらそりゃ天才かまぐれのどっちか。
どの生き方を選択するも自分次第です。
— リライフLab編集長 (@natsuotokoT) September 10, 2021
当時も今も、実感は変わりません。自信は行動の前提条件ではなく、行動の産物です。
ただ、正直に言うと、この話には続きがあります。
月収が600万円を超えた時期がありました。成果が自信を生むなら、あの頃の私は自信の塊だったはずです。ところが「自分はここにいていい」という種類の安心は、ほとんど増えていませんでした。
成功は、たしかに自信をくれる。でも、全部の自信をくれるわけではない。
成功がくれる自信と、くれない自信がある──この切り分けを、研究が綺麗にやってくれています。まずは研究の答えからです。
心理学の答え──「自己肯定感が高いから成功する」は検証で崩れた
教育も自己啓発も、長いあいだ「自己肯定感を高めれば、成績も仕事も人間関係も良くなる」という前提で動いてきました。
この前提を正面から検証したのが、心理学者ロイ・バウマイスターらによる2003年の大規模レビューです。自己申告ではなく客観的な指標を使った研究を、総点検しました。
参考:Baumeister, R. F., Campbell, J. D., Krueger, J. I., & Vohs, K. D. (2003). “Does High Self-Esteem Cause Better Performance, Interpersonal Success, Happiness, or Healthier Lifestyles?” Psychological Science in the Public Interest, 4(1), 1-44./https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26151640/
矢印は、逆向きだった
レビューの結論は、こうです。
自己肯定感と学業成績の相関は、そもそも控えめでした。そして高い自己肯定感が良い成績を生むのではなく、自己肯定感のほうが良い成績の「部分的な結果」である。
象徴的なのが、レビューでも引かれている米国の高校生の縦断研究です。高校1年生にあたる10年生の時点の自己肯定感は、3年生にあたる12年生時点の成績を予測しませんでした。ところが1年生時点の成績のほうは、3年生時点の自己肯定感を予測したのです。
矢印は「自信→成績」ではなく、「成績→自信」の向きにだけ流れていました。
さらに、自己肯定感を高める教育プログラムが成績を改善した証拠は見つかりませんでした。ときに逆効果ですらあったと報告されています。
大人の仕事の成果についても、相関はばらつきが大きいものでした。「職業的成功が自己肯定感を高めるのであって、その逆ではない」可能性さえ指摘されています。
この結論は、15年後に著者ら自身が再点検しても変わっていません。
参考:Baumeister, R. F. & Vohs, K. D. (2018). “Revisiting Our Reappraisal of the (Surprisingly Few) Benefits of High Self-Esteem” Perspectives on Psychological Science/https://carlsonschool.umn.edu/sites/carlsonschool.umn.edu/files/2019-04/baumeister_vohs_2018_perspectives_self-pspi_redux_1.pdf
「関係がある」と「原因である」は違う
なぜ、世界中がこの順序を取り違えたのか。「関係がある」と「原因である」を混同したからです。
雨の日は、傘を差す人が増えます。傘と雨には、たしかに強い関係がある。けれど、街じゅうの人に傘を配っても、雨は降り出しません。
自己肯定感の高い人が成功して見えるのも、これと同じ構図でした。
成功という雨が先に降っていて、自信という傘が後から開いていた。
それを見て「傘を配れば雨が降る」と考えてしまったのが、自己肯定感ブームの誤算だったわけです。
念のため正確に言えば、研究が確かめたのは「自己肯定感が先ではない」というところまでです。「成功が先」という冒頭の答えは、そこに私自身の実感を重ねたものだと受け取ってください。
成功が育てるのは「できる」で、「いていい」ではない
では、成果を出せば自信の問題はすべて解決するのか。ここが、この記事でいちばん伝えたいところです。
成功が育てる自信は、「これなら自分にもできる」という行動への自信──心理学で言う自己効力感です。私がネットビジネスの小さな成果で積み上げたのも、まさにこれでした。
一方の自己肯定感は、「できてもできなくても、自分はここにいていい」という存在への安心感。
この2つは似た顔をしていますが、まったくの別物です。この詳しい区別と育て分けを、別の記事で整理しています。
私は13歳のとき、学年1位という「できる」の証拠を手にしながら、「いていい」のほうは崩れかけるという逆転を経験しました。成果の積み上げは、存在の安心に自動では換算されないのです。
成功の階段を上がりきった人が「自分は偽物だ」という感覚に苦しむ現象も、同じ構造から生まれます。この評価と自己評価のギャップの正体を、別の記事で掘り下げました。
たとえるなら、「できる」という自信は成功の影です。歩けば、勝手に後ろへ伸びていく。でも、歩く前に影だけを先に作ることはできません。
そして「いていい」という自信は、影ではありません。日が沈んでも消えないもの──立っている地面のほうです。
成功は影を伸ばしてくれますが、地面は用意してくれないのです。
自己肯定感の本当の仕事は、成功の「前」ではなく失敗の「後」にある
それなら、自己肯定感は成功と無関係なのか。実は、バウマイスターらのレビューには重要な例外がひとつ記されています。
実験室研究で、高い自己肯定感が課題の成績を上げる証拠はほぼ見つかりませんでした。ただひとつ確認されたのが、高い自己肯定感は「失敗した後の粘り強さ」を支えるという効果です。
これ、私は読んだとき唸りました。実感と完全に一致していたからです。
私の月収は、600万円を超えた時期から、11万円まで落ちたことがあります。それでも心は折れませんでした。
安心の拠り所を、口座の残高ではなく「また稼げる力」に置けていたこと。収入が崩れても「存在の価値」までは崩れない仕分けができていたこと。この2つに救われました。
つまり、自己肯定感は成功を生む装置ではないのです。失敗を致命傷にしない装置なのです。
自己肯定感が高い人が成功して見える本当の理由も、ここにあると私は考えています。
挑戦のたびに勝率が高いからではなく、負けた日に退場しないから、挑戦の回数が減らない。回数が減らなければ、長期では結果の総量が増えていきます。
この「倒れても立ち上がる力」の全体像は、リングで学んだ確信とあわせて別の記事に書きました。
もうひとつ、レビューが認めた自己肯定感の効用があります。幸福との強い結びつきです。著者らは、高い自己肯定感は幸福につながると述べています。
成績や成功を生む効果は、ほとんど確認できませんでした。証拠として残ったのは、自分から動き出す力と、心地よい感情の2つです。成功の装置としては落第でも、幸福の装置としては優等生──それが自己肯定感の正体です。
では、何から始めるか──「どちらが先か」の実務
整理できたところで、順序を実際の行動に落とします。やることは3つです。
① 自信の「前払い」を待たない
「自信がついたら始めよう」は、順序が逆です。影を先に作ってから歩こうとしているのと同じで、その日は永遠に来ません。
この「準備が整ってから」の罠から抜ける考え方は、コンサルティングの現場で見てきた実例とともに別の記事にまとめています。
② 「できる」は、小さく動いて迎えに行く
自己効力感のほうは、成果が育ててくれます。だから、成果が出るサイズまで行動を刻むことが近道です。
1日で終わる作業、1週間で形になる挑戦。影は、歩幅が小さくてもちゃんと伸びます。歩き続けてさえいれば。
③ 「いていい」は、成果を待たずに今日決める
自己肯定感だけは、成功からの逆算で手に入りません。待っていても届かないので、先に決めてしまいます。結果が出た日も出なかった日も、自分だけは自分の味方でいる、と。
そのうえで、何をもって「成功」とするかの基準も、自分で持っておくことをおすすめします。社会から借りてきた基準のままでは、どれだけ勝っても採点が合わないからです。この自分基準のつくり方は、5つの問いに整理しました。
おわりに──影を追いかけない
【この記事の要点】
- 「自己肯定感が高いから成功する」は、2003年の大規模レビューでほぼ否定された。矢印はむしろ「成功→自信」の向き。
- ただし成功が育てるのは「できる」(自己効力感)で、「いていい」(自己肯定感)は成果からは生まれない。
- 自己肯定感の本当の仕事は、失敗を致命傷にしないこと。退場しない人が、結果的に長期で勝つ。
- 順序の実務は3つ──自信の前払いを待たない/「できる」は小さく動いて迎えに行く/「いていい」は今日決める。
自信を追いかけるのは、自分の影を追いかけるのに似ています。追えば逃げ、歩けばついてくる。
だから、先に歩く。そして、日が陰った日のために、立つ地面──「ここにいていい」だけは、天気と関係なく自分で決めておく。私が「できる」と「いていい」を分けて扱って、たどり着いた順序です。
自己肯定感が低いまま歩き出した私の原点は、著書(Amazon kindle ランキング 5冠を達成した電子書籍)『あ、常識とかいいんで、とりあえず自由ください。』に綴っています。下記より無料でお読みいただけます。自信が足りないから動けない、と感じている方にこそ届いてほしい一冊です。


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