褒められないとやる気が出ない本当の理由|動機の燃料を取り戻す

褒めがなくてもやる気は育てられるイメージ
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頑張っても、誰も褒めてくれない。それだけで、やる気が静かに抜けていく──褒められないとやる気が出ない自分を、「甘えているのかな」と責めていませんか。

答えから書きます。

それは甘えでも、性格の欠陥でもありません。「褒め」が、あなたのやる気の燃料の席に座り込んでいるだけです。

座る席の問題なら、席替えで直せます。褒められたい気持ちを、捨てる必要もありません。

私はフリーター時代に30社を超える職場を渡り、褒めのない現場と褒めの飛び交う現場の両方で働きました。

その前のプロボクサーとして過ごした約10年は、歓声という強烈な報酬が年に数回しか鳴らない世界でした。

そしていまは、誰にも褒められない仕事で生計を立てています。

この記事では、ご褒美がやる気を消すことを示した50年前の実験から、褒められないとやる気が出なくなる仕組みを解きます。後半は、褒めを捨てずにやる気だけを取り戻す「褒めの席替え」の話です。

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同じ自分なのに、扱いがまるで違う──30社の職場で見た「褒めの相場」

最初に、フリーター時代の話をします。

プロボクサーを引退したあと、私は30社を超える職場を転々としました。同じ人間が、同じ熱量で働いているつもりでした。

ところが、扱いは職場ごとにまるで違いました。ある職場では重宝され、頼りにされる。別の職場では、何をしても反応すらありません。

正直、最初は自分を疑いました。前の職場では戦力だったのに、ここでは空気になっている。変わったのは自分ではなく、場所だけなのに。

30社分の見聞きを重ねて、ようやく腑に落ちました。

褒められる量は、頑張りの量では決まらない。職場の文化と、評価する側の性格と、その日の機嫌で決まります。

言ってみれば、褒めには「相場」があります。あなたの働きが同じでも、相場の高い店と安い店がある。それだけの話です。

ここに、やる気のアクセルを直結するとどうなるか。あなたの速度を決めるのは、あなたではなく環境になります。

褒めてくれる上司に当たれば走れて、褒めない上司に当たれば止まる。運転席に座っているのに、アクセルだけ他人の足元にある状態です。

ご褒美がやる気を消す──幼稚園で見つかった「上書き」の仕組み

「でも、褒められて伸びるのは自然なことでは?」と思われるかもしれません。

その通りです。ただしここに、心理学が50年以上前に見つけた、意外な落とし穴があります。

1973年、スタンフォード大学のレッパーらは、ある幼稚園で実験を行いました。対象は、お絵かきが大好きな子どもたち51人です。子どもたちは、3つのグループに分けられました。

【レッパーらのお絵かき実験(1973年)】

  • 予告あり群──「上手に描けたら賞状をあげる」と約束してから描いてもらう
  • 予告なし群──描き終えたあとに、予告なく賞状を渡す
  • 賞状なし群──いつも通り、ただ描いてもらう

1〜2週間後、ふだんの教室に画材が置かれ、自由時間の様子がこっそり観察されました。今度は、賞状の話は誰にもされていません。描いても何ももらえない、ただの遊び時間です。

結果は鮮やかでした。賞状なしの子は自由時間の16.7%、予告なしでもらった子は18.1%を絵に使いました。

ところが、賞状を予告されていた子だけが8.6%。ほぼ半減です。

参考:Lepper, M. R., Greene, D. & Nisbett, R. E. (1973). “Undermining Children’s Intrinsic Interest with Extrinsic Reward” Journal of Personality and Social Psychology 28(1)/https://bingschool.stanford.edu/sites/bingschool/files/1973_lepperetal.pdf

注目してほしいのは、やる気を減らした犯人は「賞状」ではない、という点です。同じ賞状でも、あとから予告なしにもらった子のやる気は、まったく減っていません。減ったのは、「もらえる」と先に約束されていた子だけです。

絵の楽しさを消したのは、ご褒美ではなく、「ご褒美のために描く」という理由の書き換えでした。心理学ではアンダーマイニング効果(動機の上書き効果)と呼ばれます。

行動の理由が「楽しいから」から「もらえるから」に書き換わる。すると、もらえない場面では、描く理由そのものが消えてしまうのです。

大人でも確認されています。

デシが1971年に行った実験では、パズル解きに金銭報酬を出された大学生は、報酬が消えると自発的に遊ばなくなりました。一方、褒め言葉をもらった学生は、むしろ自発的に遊ぶ時間が増える傾向を示しました。

参考:Deci, E. L. (1971). “Effects of Externally Mediated Rewards on Intrinsic Motivation” Journal of Personality and Social Psychology 18(1)/https://selfdeterminationtheory.org/SDT/documents/1971_Deci.pdf

その後の128の実験をまとめたメタ分析でも、結論は同じでした。モノやお金の報酬はやる気を削り、褒め言葉は、むしろやる気を高めるのです。

参考:Deci, E. L., Koestner, R. & Ryan, R. M. (1999). “A Meta-Analytic Review of Experiments Examining the Effects of Extrinsic Rewards on Intrinsic Motivation” Psychological Bulletin 125(6)/https://doi.org/10.1037/0033-2909.125.6.627

ここで、おかしなことに気づきませんか?

褒め言葉はやる気を高める側なのに、現実には「褒められないとやる気が出ない」人が大量にいる。

矛盾ではありません。

実験が示した分かれ目は、報酬の種類ではなく「先に約束されていたかどうか」です。あとから届く褒めは栄養になり、先に期待する褒めは理由を上書きする。

つまり「褒められないとやる気が出ない」とは、褒めが「あとから届くおまけ」の席から「先に期待する目的」の席へ移ってしまった状態です。あの幼稚園の、賞状を約束された子と同じ席に座っています。

思い当たっても、自分を責めないでください。私たちは十数年、正解を出せば褒められる教室で育ちました。褒めを目的の席に座らせる訓練としては、十分すぎる長さです。

なお、報酬に頼らず「活動そのものの面白さ」で動く内発的動機づけが、なぜ強く折れにくいのか。その理論と没頭の科学を、努力について書いた別の記事で整理しています。

歓声は年に数回しか鳴らない──0割1分の報酬で走り続けられた理由

この「席」の話を、私は心理学の本より先に、プロボクシングの世界で覚えました。

プロボクサーの日常は、9割9分が辛く苦しい時間です。夜明けのロードワークを褒めてくれる人はいません。

減量に入れば、体重計の数字と空腹だけが相手の日々。褒め言葉どころか、会話の気力さえ残りません。

それでも、勝った瞬間の喜びは、積み上げた苦しさが100倍にも1000倍にもなって返ってくる。私はその0割1分のために生きていました。

ここで大事なのは、歓声や勝利という報酬が年に数回しか来ないという事実です。

もし歓声を毎日の燃料にしていたら、私は報酬のない364日のどこかで止まっていたはずです。それではボクサーは一人も育たない理屈になります。

リングの上の承認が私の存在証明だったこと、そして後年、その承認欲求に食われかけたこと。このあたりは、承認欲求との付き合い方を書いた記事が担当しています。

承認が人を支えることと、承認が毎日の燃料であることは、別の話です。支えは遠くからでも効きますが、燃料は毎日入れなければ切れます。

私の中で、報酬の席は2つに分かれています。

【報酬が座る2つの席】

  • 北極星の席──遠くから方向を教える席。次の試合の歓声、半年後の評価、いつか認めさせたいあの人。ここに置いた報酬は、来ない日にも人を導く。
  • エンジンの席──毎日の駆動を担う席。ここに褒めを置くと、褒めが来ない日は一歩も動けなくなる。

褒められたい気持ちは、北極星の席に置けば立派に機能します。問題は席であって、気持ちではありません。

必要なのは、褒めを我慢することでも、褒められたい自分を卒業することでもなく、褒めの席替えです。

褒めを捨てない「席替え」──明日からの3つの置き場所

では、具体的にどう席を替えるか。私が実際にやってきた順に、3つ書きます。

席替え① 褒めは「北極星」に戻す──目指す先として残す

最初にやるのは、褒められたい気持ちの否定ではなく、置き直しです。

「この仕事で、半年後にあの人に認めさせる」

そう遠くに置いた褒めは、今日褒められなくても消えない目印になります。

逆に「今日の頑張りを、今日褒めてほしい」とエンジンに入れた瞬間、供給は相手次第になります。あの30社の「相場」の話に逆戻りです。

褒められたい相手と褒められたい時期を、あえて遠くに設定する。これだけで、目の前の無反応に燃料を抜かれなくなります。

席替え② エンジンには「進んだ事実」を入れる

褒めの代わりに毎日入れられる燃料は、進んだ量が自分に見えることです。

書いた行数、続いた日数、昨日より動いた数字。何でも構いません。人の言葉と違って、事実は毎日必ず手に入ります。

いまの私の仕事は、成果の数字は出ても、誰も褒めてくれません。それでも翌朝また机に向かえるのは、昨日より進んだ事実が見えているからです。

ここで「自分で自分を褒めましょう」と言わないのには、理由があります。無理に自分を褒めると逆効果になることを示した研究があり、必要なのは褒めではなく事実の確認だからです。

「自分を褒める」が苦手な人ほど、無理に褒めようとせず、事実を認める側へ切り替えたほうが楽です。そのやり方を、別の記事で整理しました。

さらに、進んだ事実が自動で積み上がる仕組みまで作れると、やる気の出番自体が減ります。

モチベーションに頼らず続ける仕組みの設計は、継続をテーマにした記事が担当です。

席替え③ 「無言の褒め」を受信できるようになる

最後は、受信側の感度の話です。個人的には、ここがいちばん大事だと思っています。

言葉の褒めが来ない環境にも、評価は流れています。任される仕事の変化、相談される頻度、そして商売なら「2回目」。

物を売る側を長くやってきた私は、レビューの褒め言葉より、黙って2回目を買ってくれる事実のほうを信じています。

最高の褒め言葉は、しばしば無言で届くのです。

「褒められていない」と感じている人の何割かは、言葉以外の形で届いている評価を、受信できていないだけです。

それでも言葉が欲しいときは、「どこを直すと、もっと良くなりますか」と聞いてください。褒めをねだるのではなく、情報を取りに行く。この形なら相手も答えやすく、返ってきた言葉はそのまま燃料になります。

おわりに──褒められたい自分のまま、走れるようになる

褒められないとやる気が出ないのは、あなたが弱いからではありません。ご褒美が行動の理由を上書きする仕組みと、褒めで動くよう積み重ねられてきた訓練の、自然な結果です。

そして実験が教えてくれた通り、褒めそのものは、やる気を高める栄養です。座る席さえ間違えなければ。

北極星に褒めを、エンジンに進んだ事実を。この席替えが済むと、歓声の鳴らない月曜日も、ちゃんと走れるようになります。

私自身の人生でいちばん大きな席替えは、就職をしないと決めたことでした。「いい会社に入る」は、親も先生も世間も褒めてくれる、いちばん大きな賞状です。

私はその賞状を辞退して、誰にも褒められない道を選びました。

その顛末と、そこから組み立てた生き方は、著書(Amazon kindle ランキング 5冠を達成した電子書籍)『あ、常識とかいいんで、とりあえず自由ください。』に書いています。

無料で読めますので、自分の人生の「賞状」を疑いたくなった日に、開いてみてください。

リライフ特集

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Studio Rough Style(SRS)代表。 当サイト管理人&編集長。 1976年生まれ、熊本県出身、東京都在住。 元プロボクサーで、選手引退後に、派遣・アルバイトなど30社以上の現場を渡り歩くフリーター生活を経験後、セカンドキャリとしてネット起業の世界へ。 詳細は下記にて。 [clink url="https://studio-rough-style.net/self-introduction/"]

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