PTG(心的外傷後成長)とは|逆境を「成長のバネ」に変える心の仕組み

PTG(心的外傷後成長)のイメージ
ページに広告が含まれる場合があります

PTG(心的外傷後成長)という言葉があります。逆境やトラウマを経験した人が、その苦しみとのもがきの先で、以前の自分よりも成長する──心理学ではそう定義される現象です。

正直に言うと、私はこの概念を、机の上の知識として知ったのではありません。

2014年の終わり、私は離婚しました。仕事もネットビジネスも手につかなくなり、街がクリスマスと正月で浮かれるなか、一人きりで年を越しました。あれほど「金を稼ぐ」と息巻いていた人間から、気力という気力が抜け落ちていました。

その日々を振り返るとき、私の中にはひとつのイメージがあります。

どん底に落ちたとき、その下にあったのは固い地面ではなく、大きなバネだった。

落ちれば落ちるほど、その反動で高く跳べる。もちろん、渦中にいるときはそんなふうに思えません。けれど数年後、私の生き方は逆境の前より確実に「まし」になっていました。PTGとは、このバネに心理学が名前を付けたものだと、私は理解しています。

この記事では、PTG(心的外傷後成長)の定義と5つの成長領域、レジリエンスとの違い、そして「成長のバネ」が働く条件を、研究知見と私自身のどん底の体験を突き合わせながら整理します。

PTG(心的外傷後成長)とは──どん底の「バネ」に心理学がつけた名前

PTGは「Post-Traumatic Growth」の略で、日本語では「心的外傷後成長」と訳されます。

提唱したのは、アメリカの心理学者リチャード・テデスキとローレンス・カルフーン。1996年の論文で、PTGを測定する尺度(PTGI)とともに発表されました。定義を一言でいえば、「危機的な出来事や困難な経験との精神的なもがき・闘いの結果として生じる、ポジティブな心理的変容」です。

参考:Tedeschi, R. G. & Calhoun, L. G. (1996). “The Posttraumatic Growth Inventory: Measuring the positive legacy of trauma” Journal of Traumatic Stress/https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/jts.2490090305

ここで見落とされがちなポイントが2つあります。

1つ目は、成長をもたらすのは出来事そのものではなく、「もがき」だということです。離婚したから成長するのではありません。離婚によって崩れた世界観を、時間をかけて組み直す。その苦しい作業の副産物として、成長が生じます。

2つ目は、PTGは「元に戻ること」ではないという点です。落ち込んだ状態から回復する力は、レジリエンス(回復力)と呼ばれます。PTGはその先、「元の自分」を超えて変わってしまう現象を指します。回復と成長は、似ているようで別のプロセスです。レジリエンスそのものの仕組みと鍛え方は、別記事で詳しく整理しています。

たとえるなら、レジリエンスは「骨折が治ること」、PTGは「骨折をきっかけに身体の使い方そのものを見直し、以前より丈夫になること」。治ることと、作り直されることは違うのです。

PTGの5つの成長領域──人は逆境の後、どこが変わるのか

テデスキとカルフーンの研究では、PTGは主に5つの領域で現れることが示されています。

【PTGの5つの成長領域】

  1. 他者との関係:人とのつながりが深まる。「つらいときは頼っていい」と思えるようになる。
  2. 新たな可能性:それまで描いていた人生とは別の道筋・優先順位が見えてくる。
  3. 人間としての強さ:「自分は思っていたより強い」という自己認識の変化。
  4. 精神性的変容:生きる意味や存在について、深く考えるようになる。
  5. 人生に対する感謝:当たり前だった日常に、感謝を感じるようになる。

参考:Tedeschi, R. G. & Calhoun, L. G. (2004). “Posttraumatic Growth: Conceptual Foundations and Empirical Evidence” Psychological Inquiry/https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1207/s15327965pli1501_01

このリストを初めて読んだとき、私は少し鳥肌が立ちました。離婚後の数年間で自分に起きた変化と、ほとんど重なっていたからです。

ひとつずつ、自分の場合を照らしてみます。

他者との関係──虚無感を薄めたのは、従兄弟たちとの本音の会話だった

離婚から半年ほど、私は誰とも深く関わらず、虚無感の中で時間だけを溶かしていました。

それが動いたのは、2015年4月です。祖父が亡くなり、九州の実家に十数年ぶりに親族一同が集まりました。気心の知れた従兄弟たちと近況を報告し合い、本音で語り合う。

ときに叱られ、ときに励まされ。この時間を境に、心を覆っていた虚無感が、少しずつ薄れていったのです。

いま思えば、あれが私のPTGの起点でした。一人で抱え込んでいた出来事を、安心できる相手に向かって言葉にする。心理学でいう自己開示です。人とのつながりが回復の入り口になるという実感は、このとき身体に刻まれました。

一人でいることと、孤立してしまうことの違いについては、別記事で掘り下げています。

新たな可能性──ビジネスの目的が「金」から「時間」に変わった

離婚の大きな原因のひとつは、私自身のネットビジネスでした。

当時の私は「男はとにかく金を稼いでナンボ」という拘りで、トリプルワークをこなしながら労働収入型のビジネスに没頭し、家族(当時の妻)との時間を犠牲にし続けていました。その果てに、一番大切なものを失ったわけです。

だから再起にあたって、私はビジネスの目的そのものを書き換えました。大きなお金を手に入れることではなく、自由な時間を生み出す自動化の仕組みをつくること。稼ぎ方の技術ではなく、優先順位が変わったのです。

これはまさに「それまで描いていた人生とは別の道筋が見えてくる」という、新たな可能性の領域の変化でした。

強さ・感謝──「失ってもまた立てた」という事実が残った

残りの領域も、程度の差はあれ、心当たりがあります。

再起の過程で、口座残高が底をつくギリギリの生活も経験しました。それでも数ヵ月、毎日キーボードを叩き続けて結果を出せた。この事実は「自分は思っていたより折れない」という静かな自信になりました。

そして、いまの私は、どんなに忙しい日でも家族(現在の妻)との時間を確保することを徹底しています。家族と囲む夕食が当たり前ではないことを、一度失って知ったからです。

人生に対する感謝というと大げさに聞こえますが、実態はこういう地味な変化の積み重ねだと思います。

成長は自動では起きない──「侵入的反芻」から「意図的反芻」へ

ここまで読むと、「逆境に遭えば人は成長する」ように聞こえるかもしれません。

違います。PTGは自動では起きません。この点を外すと、PTGはただの根性論・美談になってしまいます。

PTG研究では、成長の鍵は「反芻(はんすう)」──つまり、出来事について繰り返し考える心の働きにあるとされています。反芻には2種類あります。

【2種類の反芻】

  1. 侵入的反芻:考えたくないのに、出来事が勝手に頭に侵入してくる。ネガティブで自動的な反すう。
  2. 意図的反芻:出来事の意味を理解しようと、自分から意図的に考え直す。建設的な反すう。

逆境の直後は、誰でも侵入的反芻に襲われます。そして研究では、そこから意図的反芻へ移行できた人ほど、PTGを経験しやすいことが報告されています。

つまり、崩れた世界観を「考え直す」作業を自分から始められるかどうかが、分かれ道になるのです。

参考:Cann, A. et al. (2011). “Assessing posttraumatic cognitive processes: the Event Related Rumination Inventory” Anxiety, Stress & Coping/https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21082446/

私の場合、離婚直後の半年間は、完全に侵入的反芻の時期でした。考えまいとするほど、失ったものの記憶が押し寄せてくる。この時期の反芻は、苦しいだけで、何も生みませんでした。

意図的反芻に切り替わったきっかけが、先ほどの従兄弟たちとの対話です。人に語るという行為は、出来事を無理やり言葉に変換します。言葉になった瞬間、出来事は「襲ってくるもの」から「考察できる対象」に変わる。そこから私は、過去を悔やむのではなく、これからの生き方を組み直す方向へ思考を向け直しました。

回り始めていた収入をあえて手放し、ゼロから学び直すという当時の決断については、別記事で詳しく書いています。

PTGの注意点──成長を、他人にも自分にも強要しない

PTGを紹介するうえで、どうしても書いておきたい注意点があります。

それは、PTGを「だから逆境は良いものだ」という話にすり替えてはいけないということです。

苦しんでいる人に「この経験もきっと成長になるよ」と声をかけるのは、励ましのつもりでも、相手の苦しみを軽く扱う行為になりえます。成長は、本人のもがきの中から、本人のペースでしか生まれません。外から急かすものでも、ノルマにするものでもない。

自分に対しても同じです。逆境の渦中で「成長しなきゃ」と焦る必要はありません。侵入的反芻に苦しんでいる時期は、まだ土台が崩れている段階です。研究が示すとおり、意図的反芻はその後に来る。順番を飛ばせないのがPTGです。

また、研究の世界でも、本人が語る「成長の実感」と実際の行動の変化が、常に一致するとは限らないという慎重な議論があります。PTGは魔法の言葉ではなく、あくまで「そういう変化が起こりうる」という希望の枠組みとして受け取るのが誠実だと、私は考えています。

なお、眠れない・日常生活が送れないほどの症状が続く場合は、PTSD(心的外傷後ストレス障害)の可能性もあります。その場合は、この記事のような一般論ではなく、精神科・心療内科など専門家の力を借りてください。

逆境の渦中にいるあなたへ──バネが働き出すまでにできる3つのこと

では、いま実際にどん底にいる人は、何をすればいいのか。

私の経験と研究知見を重ねると、できることは3つに絞られます。

① 無理にポジティブにならない

まず、前向きになろうとしなくていい。

侵入的反芻の時期に必要なのは、ポジティブ思考ではなく、心と身体の安全確保です。眠る。食べる。とりあえず今日を終える。私も離婚直後の半年間は、ただ時間が過ぎるのを待つだけでした。あの停滞は、無駄ではなく、必要な期間だったといまは思います。

② 安心できる相手に、言葉にして話す

タイミングが来たら、信頼できる誰かに出来事を話してみてください。

上手に話す必要はありません。私にとっての従兄弟たちのように、飾らずに聞いてくれる相手が一人いれば十分です。語ることは、侵入的反芻を意図的反芻へ切り替える、最も自然なスイッチになります。

③ 自分を責める声に、反論する

逆境の後は、「全部自分のせいだ」という自己批判が強まりがちです。

しかし、自己批判は反省ではなく、回復と成長の両方を遅らせるブレーキです。自分に厳しくするほど成果が遠のくメカニズムと、セルフコンパッション(自分への思いやり)の実践については、別記事で科学的な根拠から整理しています。

おわりに──バネは、落ちてみないと見つからない

誤解のないように言っておくと、私は逆境を勧めません。

あんな思いは、二度としたくない。できることなら、あなたにも経験してほしくない。それが本音です。

ただ、人生には、選べない逆境が向こうからやってくることがあります。そのとき、「落ちたら終わり」という世界観と、「どん底の下にはバネがあるかもしれない」という世界観のどちらを持っているかで、もがき方が変わります。

私の周りで大きな結果を出してきた人たちにも、壮絶な過去を抱えた人が少なくありません。彼らは、過去の怒りや悔しさを、行動のエネルギーに変換してきた人たちです。

コンプレックスや辛い経験は、置き場所を変えれば武器になる。PTGという概念は、その変換が気合いではなく、心の仕組みとして説明できることを教えてくれます。

落ちている最中は、バネの存在なんて信じられなくていい。

ただ、いつか顔を上げたとき、この記事のことを思い出してもらえたら嬉しいです。

どん底から人生を組み直すとき、私が最初に手放したのは「こうあるべき」という常識でした。その顛末は、著書(Amazon kindle ランキング 5冠を達成した電子書籍)『あ、常識とかいいんで、とりあえず自由ください。』に綴っています。崩れた前提の上に、何をどう建て直すか。その一つの実例として、下記より無料でお読みいただけます。

リライフ特集

この記事は役に立ちましたか?
もし参考になりましたら、下のボタンで教えてください。

Studio Rough Style(SRS)代表。 当サイト管理人&編集長。 1976年生まれ、熊本県出身、東京都在住。 元プロボクサーで、選手引退後に、派遣・アルバイトなど30社以上の現場を渡り歩くフリーター生活を経験後、セカンドキャリとしてネット起業の世界へ。 詳細は下記にて。 [clink url="https://studio-rough-style.net/self-introduction/"]

コメント

この記事へのコメントはありません。

コメントを残す


関連記事

目次