賃貸と持ち家、結局どちらが得なのか。
何十年も擦り切れるほど繰り返されてきた、人生最大の買い物をめぐる論争です。
数字の答えそのものは、はっきりしています。
金銭的にどちらが得かは、「同じ場所に何年住むか」と「その家が値下がりしにくいか」の2点でほぼ決まります。
ただし2026年、この計算の前提が大きく動きました。日銀の利上げで政策金利は約31年ぶりの1%になり、「金利ゼロ」を前提に書かれた古いシミュレーションは、そのままでは使えなくなったのです。
そしてもうひとつ。
私はこの「賃貸vs持ち家」という問いの立て方そのものに、落とし穴があると考えています。
本当に分けて考えるべきは、賃貸か持ち家かではなく、その家が「資産」になるか「負債」になるかです。
実は私自身、「住宅なんて絶対いらない」と言い切っていた人間でした。その考えは投資を学んで一度変わり、そして今、もう一度変わりつつあります。この記事の最後で、その二度目の変化も正直に書きます。
この記事では、賃貸と持ち家の生涯コストを最新の公的データで比較し、金利1%時代の損益分岐点と機会費用を整理します。そのうえで、「資産になる家・負債になる家」の見極め方と、数字には出てこない最大のコストである「場所の自由」について、私自身の考えをお伝えします。
なお、本記事は一般的な考え方の解説であり、特定の物件購入を勧めるものでも、税務・投資の個別助言でもありません。金利・税制・地価は変動します。最終的な判断は、必ず最新の一次情報とファイナンシャルプランナー・税理士などの専門家にご確認ください。
結論──「住む年数」と「資産か負債か」で答えは決まる
最初に、この記事全体の結論を置いておきます。
賃貸と持ち家のどちらが得かは、住む年数と資産価値で決まります。
15〜20年以上同じ場所に住み、かつ値下がりしにくい家を選べるなら持ち家が有利。短期間で住み替える可能性があるなら賃貸が有利です。
【この記事でわかること】
- 賃貸と持ち家の生涯コストを、最新の公的データで数字比較。
- 2026年の利上げで、損益分岐点の計算がどう変わったか。
- 「賃貸か持ち家か」より大事な「資産になる家・負債になる家」の見極め方。
- 数字に出ない最大のコスト=「場所の自由」というトレードオフ。
- タイプ別に見る、あなたが選ぶべき方向。
「結局どちらとも言えない」という曖昧な結論で終わる記事は多いものです。確かに、万人に当てはまる正解はありません。
しかし、自分の条件を数字に当てはめれば、答えはかなりはっきり出ます。
まずは、私自身の話から始めさせてください。数字の話を、ただの計算問題で終わらせないためです。
「住宅は絶対いらない」と言っていた私の、考えが変わった話
もともと私は、「住宅なんて絶対に必要ない」と公言していた人間です。物欲が薄く、車も腕時計も持たず、住まいも控えめ。お金を使うのは、美味しい食事とお酒、それと旅行くらいのものです。
そんな私ですから、都心のタワーマンションを買う人たちの気持ちは、長いこと理解の外にありました。見方が変わったのは、自分で投資や資産運用を学んでからです。
彼らの多くは見栄で買っているのではなく、「価値が下がりにくく、いつでも現金化できるもの」を選んでいるだけ──形を変えた貯金をしているのだと気づきました。
この「節約と浪費の境界線」の話そのものは、別の記事で詳しく書いています。
この記事で扱いたいのは、その視点を「住まい」に当てはめたときに、何が見えるかです。
不人気エリアの新築は、住んだ瞬間から価値を垂れ流す買い物になる。人気エリアの中古を相場で買えば、同じ「持ち家」でも家計の構造がまるで変わる。
「新築の持ち家はいらない。でも、資産価値の落ちにくい中古ならアリだ」──私は、そう考えるようになりました。
この「資産か負債か」という軸を頭に置いたうえで、まずは基本の数字を確認していきましょう。
数字で見る──賃貸と持ち家の生涯コスト
感覚論で議論しても答えは出ません。まず、両者の生涯コストを具体的な数字で比較します。
前提として、日本の持ち家住宅率は60.9%(2023年)で、6割の世帯が持ち家を選んでいます。多数派が選んでいるからといって、それが自分にとっての正解とは限りませんが、出発点として押さえておきます。
参考:総務省「令和5年住宅・土地統計調査(基本集計)」/https://www.stat.go.jp/data/jyutaku/2023/pdf/kihon_gaiyou.pdf
賃貸の生涯コスト──「払い続けるが、資産は残らない」
賃貸で発生する費用は、シンプルです。家賃を払い続ける代わりに、退去時に手元へ残るものはありません。
【賃貸の主なコスト】
- 家賃──たとえば月10万円で30年なら、それだけで3,600万円。
- 更新料──2年ごとに家賃1〜2か月分が一般的。
- 引越し費用・敷金礼金──住み替えのたびに発生。
- 家賃の上昇──インフレ局面では家賃が上がる可能性がある。
賃貸の弱点は、何年払っても資産が残らないこと、そして高齢になると入居審査が厳しくなる場合があることです。
一方で、初期費用が軽く、ライフスタイルの変化に合わせて自由に住み替えられるのが最大の強みです。
持ち家の生涯コスト──「ローン以外」が意外に重い
持ち家は「ローンを払い終えれば資産が残る」のが魅力です。ただし、多くの人が見落とすのが、ローン返済以外の継続コストです。
【持ち家の主なコスト】
- 住宅ローン返済──国土交通省の最新調査(令和7年度)では、住宅購入資金の平均値は注文住宅で7,646万円、分譲マンションで6,443万円、分譲戸建てで5,099万円。前年度の調査から大幅に上昇しており、住宅価格の高騰が続いている。
- 購入諸費用──仲介手数料・登記費用などで物件価格の3〜7%程度が一度きりで発生。
- 固定資産税・都市計画税──戸建てで年10〜15万円、マンションで年10〜30万円程度が目安(評価額により変動)。
- 修繕費・修繕積立金──戸建ては年10〜20万円が目安。マンションは管理費と合わせ月2〜5万円かかることも。
- 火災・地震保険料。
参考:国土交通省「令和7年度 住宅市場動向調査」/https://www.mlit.go.jp/report/press/house02_hh_000248.html
同じ調査でもうひとつ注目すべきは、中古住宅の購入資金は中古戸建てで2,966万円、中古マンションで3,321万円と、新築の半分以下に収まっていることです。「新築か中古か」で、背負う金額の桁がほとんど変わる──この事実は、あとで述べる「資産になる家」の話に直結します。
購入後に「想定外だった」と語られがちなのが、修繕積立金の値上げ、固定資産税、保険料といった、ローンの外側にある費目です。
持ち家のコストは「ローンを完済したら終わり」ではなく、住んでいる限り永続的に発生し続ける──これは購入前に必ず頭に入れておくべき点です。
住居費はもともと、家計のなかで最も大きな「固定費」です。固定費は1回の見直しが長期にわたって効くため、賃貸・持ち家のどちらを選ぶにせよ、住居費の設計は家計全体の土台になります。
固定費の考え方そのものは、別記事で詳しく整理しています。
損益分岐点──「何年住むか」が運命を分ける
賃貸と持ち家のコストは、時間の経過とともに逆転します。最初は初期費用の大きい持ち家のほうが高くつきますが、賃貸は家賃を払い続けるため、ある時点で持ち家の累計コストが賃貸を下回ります。これが損益分岐点です。
一般的には、15〜20年以上同じ場所に住むと、持ち家が有利になりやすいとされています。逆に言えば、転勤・転職・家族構成の変化などで早期に住み替える可能性が高い人は、賃貸のほうがコストを抑えられる傾向があります。
条件によって分岐点は前後するため、「自分の家賃・物件価格・居住年数」を当てはめて試算することが欠かせません。
2026年、「金利のある世界」で計算の前提が変わった
ここは、この記事を2026年に読んでいるあなたにとって、いちばん実務的に重要な章かもしれません。
日銀は2024年3月にマイナス金利を解除して以降、段階的な利上げを続け、2026年6月には政策金利を1.0%へ引き上げました。約31年ぶりの水準です。
これを受けて、変動金利型住宅ローンの基準金利は2026年の秋ごろから順次見直され、固定金利もすでに10年固定が過去最高水準の更新を続けています。
参考:三菱UFJ銀行「【2026年最新】住宅ローンの金利は今後どうなる?」/https://www.bk.mufg.jp/kariru/jutaku/column/032/index.html
何が変わるのか。
住宅ローンは借入額が大きいぶん、わずかな金利差が総返済額を大きく動かします。たとえば4,000万円を35年で借りる場合、金利が1%上がると、総返済額はおおまかに800万円前後増える計算になります(元利均等・概算)。
ネット上に無数にある「賃貸vs持ち家シミュレーション」の多くは、超低金利時代の前提で書かれたものです。その分岐点をそのまま信じて動くのは、もう危険です。
【金利上昇が「賃貸vs持ち家」に与える影響】
- 持ち家のコストが増える──同じ物件でも、総返済額が数百万円単位で上振れする。損益分岐点は後ろへずれる。
- 「変動一択」の常識が崩れつつある──追加利上げの観測もあり、金利タイプの選択自体が難しくなっている。
- インフレは家賃も押し上げる──賃貸が自動的に有利になるわけではない。物価と金利はセットで動く。
誤解しないでいただきたいのは、「金利が上がったから持ち家は損」という単純な話ではないことです。インフレ局面では家賃も現金の価値も無傷ではいられません。
大切なのは、古い前提の損得表を捨てて、いまの金利・いまの物件価格・自分の居住年数で計算し直すこと。
この一手間を惜しむには、住宅は高すぎる買い物です。
見落とされがちな「機会費用」という視点
数字の比較で、もうひとつ忘れてはならないのが機会費用です。聞き慣れない言葉かもしれませんが、意味はシンプル。
「そのお金を別のことに使っていたら、得られたはずの利益」のことです。
持ち家を買うと、頭金として数百万円のまとまった現金を投じます。もしそのお金を投資に回していたら、運用益が得られたかもしれません。
持ち家の本当のコストには、「頭金を投資に回せなかったこと」による逸失利益も含まれるのです。
逆に賃貸派にとっては、「持ち家のローン返済額と家賃の差額を、きちんと投資に回せるか」が分かれ目になります。差額を貯蓄せず使ってしまえば、賃貸の金銭的メリットは消えてしまいます。机上の計算では賃貸有利でも、実行できなければ意味がない。
この「機会費用」と「現金を寝かせることの損失」については、インフレと資産形成の観点から別記事で掘り下げています。
本当の問いは「資産になる家か、負債になる家か」
ここからが、いちばんお伝えしたい視点です。
多くの比較記事は「賃貸 vs 持ち家」という対立で語ります。
けれど私は、本当に重要なのは「持ち家かどうか」ではなく、「その家が資産になるか、負債になるか」だと考えています。同じ持ち家でも、この差は天と地ほど開きます。
たとえば、不人気エリアに3,000万円かけて新築の家を建てたとします。新築は買った瞬間に価値が落ち始め、立地が悪ければ10年後には価値が半分近くまで下がることも珍しくありません。これは資産ではなく、毎年静かに価値が減っていく「負債」に近い買い物です。
一方、人気エリアの中古物件は事情が違います。価値が下がりにくい物件なら、たとえば購入して10年住み、10年後にほぼ買値で売ることも可能になる場合があります。そうなれば、その10年間の住居費は実質的にほぼゼロ。
価値が下がりにくい物件は、貯金に近い性質を持つ「住める資産」になり得るのです。
先ほどの最新データで、新築と中古の購入資金に2倍以上の開きがあったことを思い出してください。「新築か中古か」は、好みの問題である以前に、家計の構造を決める分かれ道です。
【「資産になる家」を見分ける視点】
- 立地──駅近・人気エリアなど、需要が落ちにくい場所か。
- 新築か中古か──新築は購入直後の値下がりが大きい。中古は値下がりが緩やかなことが多い。
- 売りやすさ──いざというとき、すぐに買い手が見つかる物件か。
- 価格──「住みたい」だけでなく「他人も欲しがる」物件か。
住宅ローンを組むこと自体は、必ずしも悪ではありません。価値が落ちにくい物件を、無理のない返済計画で買うなら、それは未来の自分への投資に近い「良い借金」になり得ます。
逆に、価値の落ちる物件を背伸びして買えば、それは家計を圧迫し続ける「悪い借金」になる。
借金そのものの良し悪しを見分ける判断軸は、別記事で整理しました。
数字に出ない最大のコスト──「場所の自由」を手放すこと
もうひとつ、金銭の計算には絶対に出てこない、しかし極めて大きなコストがあります。
それは「場所の自由」を手放すことです。
持ち家を買うということは、その土地に自分の人生を固定するという決断でもあります。住宅ローンという数十年の契約を背負えば、簡単には引っ越せません。気軽に住む場所を変えられない。仕事の都合で別の街に移りたくなっても、家がある限り身動きが取りにくくなる。
これは損益分岐点の計算には現れませんが、人生の選択肢を大きく左右するコストです。
私は、住む場所は本来もっと自由であっていいと考えています。南国のリゾートに住んでもいい。都心のマンションでもいい。田舎暮らしでもいい。
住む場所を自分で選べることそのものが、人生の豊かさのひとつだと思うからです。
持ち家は安心を与えてくれる一方で、その「場所の可動性」を確実に削ります。
だからこそ、賃貸の「いつでも動ける身軽さ」は、単なる弱点ではなく、れっきとした価値です。特に、働き方や暮らし方がまだ変わりうる人にとっては、その自由は数百万円の損得を上回ることもあります。
住む場所を変える自由を、人生設計の一部としてどう活かすか──地方移住の現実と理想のギャップについては、別記事で整理しています。
タイプ別──あなたはどちらを選ぶべきか
ここまでの内容を、判断しやすいように場合分けで整理します。
あくまで一般的な傾向であり、最終的には自分の数字で確認してください。
【賃貸が向いている人】
- 転勤・転職などで、5〜10年以内に住み替える可能性がある。
- 働き方や暮らし方を、これからも柔軟に変えたい。
- 頭金との差額を、きちんと投資・貯蓄に回せる。
- 資産価値が落ちやすいエリアしか選べない。
【持ち家が向いている人】
- 同じ場所に15〜20年以上住む見通しがある。
- 価値が下がりにくい立地・物件を、無理のない返済計画で買える。
- 完済後の住居費を下げ、老後の住まいの安心を得たい。
- 住まいを自分仕様にカスタマイズしたい。
ひとつだけ補足すると、「向いている人」のどちらにも当てはまらない、あるいは迷っている人は、急いで持ち家を買わないほうが安全です。金利も物件価格も動いている今は、なおさらです。
迷っているうちは賃貸で身軽にしておき、「ここに長く住みたい」「この物件は資産になる」と確信できたときに動く。これがもっともリスクの低い順序だと、私は考えています。
それでも私は、いつか田舎に家を建てたいと思っている
最後に、ここまで書いてきたことと矛盾して聞こえるであろう本音を、ひとつだけ書いておきます。
ここまで「新築はいらない」「資産になる家を選べ」と書いてきた私には、ひそかな夢があります。
都会にほど近い、温暖で静かな田舎に、いつか自分の家を建てることです。
愛犬たちに囲まれて暮らし、DIYで家に手を入れ、家庭菜園の土に触れて、夕暮れの庭で好きな音楽を聴きながら晩酌をする──そんな毎日の器になる家です。
ちなみにこの愛犬たちは、まだ1匹も飼っていません。それでも設計図の庭には最初から3匹いる──その「犬と暮らす日を待つ」話を、別の記事に綴っています。
お気づきでしょうか。これは、この記事で書いてきた「資産になる家」の条件を、ほぼすべて裏切る買い物です。田舎の注文住宅など、数字の上では典型的な「負債」。10年後の売値を考えたら、選んではいけない物件の見本のようなものです。
それでも欲しいのは、家が資産であると同時に、「どんな毎日を過ごすか」という体験の器でもあるからです。
私は、人が最期にあの世に持っていけるのは体験だけだと考えています。だからこの家は、損得の勘定ではなく、人生の思い出への支出として買う。
数字を計算し尽くした人間だけが、「損だと知っているが、それでも欲しい」を堂々と選べる──私はそう思っています。
順序を間違えてはいけません。
数字も知らずに「夢のマイホーム」に飛びつくのは、ただの無防備です。数字を知り尽くしたうえで、あえて数字を上書きするなら、それはあなたの価値観による立派な決断です。
世間の「家は持って一人前」という声とも、「賃貸こそ合理的」という声とも関係のない、自分だけの答えになります。
常識や刷り込みから一度離れて、自分の数字と価値観で住まいを設計し直す。その発想の転換について、著書(Amazon kindle ランキング 5冠を達成した電子書籍)『あ、常識とかいいんで、とりあえず自由ください。』にも私自身の経験を綴っています。下記より無料でお読みいただけます。
まとめ──「家を持つか」より「どう生きたいか」
最後に、この記事の要点を整理します。
【この記事のまとめ】
- 賃貸と持ち家の損得は、「住む年数」と「資産価値」でほぼ決まる。目安は15〜20年。
- 2026年の利上げで計算の前提が変わった。低金利時代のシミュレーションを鵜呑みにせず、いまの金利で試算し直す。
- 持ち家はローン以外の維持費(固定資産税・修繕費・管理費)が永続的にかかる。機会費用も忘れずに。
- 本当の分かれ目は「賃貸か持ち家か」ではなく「資産になる家か、負債になる家か」。新築と中古では背負う金額が2倍以上違う。
- 数字に出ない最大のコストは「場所の自由」。身軽さも、れっきとした価値。
賃貸と持ち家、どちらが得かという問いは、つきつめると「自分はどう生きたいか」という問いに行き着きます。
家は、人生の目的ではなく手段です。
資産価値、住む年数、そして場所の自由──この3つを自分の物差しで天秤にかければ、世間の声に流されず、自分にとっての答えが見えてきます。損得を計算し尽くしたうえでなら、「損でも欲しい家」を選ぶ自由さえ、あなたのものです。
※本記事の数値や制度は変動するため、実際に動く際は、最新の一次情報とファイナンシャルプランナー・税理士などの専門家に必ずご確認ください。


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