「借金だけは絶対にするな」──親からそう言われて育った人は、少なくないでしょう。
日本では「借金=悪」という意識が根強く、借りること自体に罪悪感を覚える人が多い。けれど、私の日々の仕事は、ある意味でその真逆の原理で動いています。
私の本業はGoogleリスティングアフィリエイト、つまり広告運用です。この仕事は、先にお金を出し、後からそれ以上のお金を回収することで成立しています。
手元の現金を守ることではなく、お金を先に投じて働かせること。この「先出しのお金」の感覚が身体に入ると、借金というものの見え方が根本から変わります。
世の中には「良い借金」と「悪い借金」があります。この2つを見分ける判断基準を持っているかどうかで、人生の選択肢の数は大きく変わります。

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お金は「守るもの」ではなく「働かせるもの」──広告運用者の金銭感覚
まず、私の実感からお話しします。
広告運用では、たとえば10万円の広告費を投じて、15万円の報酬を回収します。先に出ていくお金だけを見れば「10万円の損失」です。借金に怯える感覚と同じ目で見れば、クリックひとつされることでさえ恐ろしく感じます。
けれど、投じたお金がそれ以上の価値を連れて戻ってくる構造を作れているなら、先出しのお金は損失ではなく燃料です。
この構造を、世の中ではレバレッジと呼びます。
以前、ある経営者の「ゼロから1億稼ぐより、借金してでも9億の資金を投じて10億にする方が楽だ」という趣旨の主張が話題になったことがあります。過激に聞こえるかもしれませんが、私はこれを真理だと受け止めました。
自己資金だけでコツコツ積み上げるより、借りた資金で事業を加速させる方が、構造的に速い場面は確かに存在するのです。ビジネスの世界では、借金は「悪」どころか、使いこなす者に富を運ぶ「道具」として機能しています。
ただし──ここからがこの記事の本題ですが──道具は、使い方を知らない人の手の中では凶器になります。同じ「借りる」という行為が、ある人を自由にし、ある人を破滅させる。その分かれ目を、順に見ていきます。
日本人はなぜ「借金=悪」と感じるのか
前提として、日本人の「借金アレルギー」は、個人の性格の問題ではありません。社会の仕組みがそう教えてきたのです。
戦後の「貯蓄奨励」政策
戦後の日本政府は、復興資金を集めるために国民に徹底的に貯蓄を奨励しました。「貯蓄は美徳」「借金は恥」──この価値観は、戦後教育とメディアを通じて数十年にわたって刷り込まれました。
その結果、日本の家計金融資産の約54%は今でも現金・預金です。アメリカでは現金・預金の割合は約13%で、残りは株式や投資信託などに振り分けられています。
参考:日本銀行「資金循環の日米欧比較」2024年8月/https://www.boj.or.jp/statistics/sj/sjhiq.pdf
貯蓄は確かに大切です。しかし、「貯蓄だけが正しい」という信念は、同時に「借りること=間違い」という思い込みを生みました。こうした信念は、金融心理学で「マネースクリプト」と呼ばれる無意識の台本のひとつです。その構造は別の記事で詳しく解説しています。
「お金の話はしない」文化が判断力を奪う
そもそも日本では、家庭の中でお金の話がタブー視されています。借金の仕組みを教わることもなければ、ローンの金利計算を学ぶ機会もない。判断基準を持たないまま大人になるから、「よくわからないから怖い」「怖いから借りない」になる。
恐怖の正体は、無知です。知らないから怖い。怖いからすべて避ける。その結果、良い借金まで逃してしまう。
私自身、ボクシングで学んだことですが、恐怖への対処は「避けること」ではなく「正体を知ること」です。相手のパンチが怖いのは、見えていないからです。見えれば、対処できます。借金も同じで、金利と構造が見えれば、避けるべきものと使えるものの区別がつくようになります。
「良い借金」と「悪い借金」の構造的な違い
では、良い借金と悪い借金は何が違うのか。最も本質的な違いは、シンプルです。
【良い借金と悪い借金の見分け方】
- 良い借金:借りたお金が、将来的に「それ以上の価値」を生む。時間とともに自分の状況が良くなる。
- 悪い借金:借りたお金が、消えてなくなる。時間とともに自分の状況が悪くなる。
もう少し踏み込むと、良い借金は「未来の自分への投資」であり、悪い借金は「今の自分の欲望の先食い」です。広告費の言葉で言えば、リターンの見込める出稿か、回収不能な垂れ流しか、ということです。
良い借金の例
① 自己投資のための借金
知識やスキルを身につけるために使うお金は、長期的に見れば最もリターンの高い投資です。私はこの5年間を振り返っても、教材と旅と出会いに優先的にお金を投じてきました。
フリーター時代のネット起業の初期、トリプルワークで決して余裕のなかった時期にも、まとまった金額を教材や学びに使っています。そこで得た知識と経験が、その後の収入の基盤になりました。銀行口座の残高を眺めていただけでは、何も変わっていなかったでしょう。
② 住宅ローン
住宅ローンは、日本で最も一般的な「良い借金」の代表格です。変動金利であれば年0.3〜0.8%程度と、借金の中では圧倒的に低金利。さらに、住宅ローン控除による税制優遇、団体信用生命保険(万一の際に残債がゼロになる保障)が付きます。
ただし、住宅ローンが「良い借金」になるかどうかは、買う物件しだいです。需要のある立地の、価値が下がりにくい物件なら、ローン返済は「消える家賃」ではなく「資産への転換」になる。「資産になる家・負債になる家」の見極め方は別記事で整理しました。
③ 奨学金
奨学金は本来「良い借金」に分類されます。教育を受けることで、生涯年収が上がる可能性が高い。日本学生支援機構の第二種奨学金でも金利は最大で年3%、現在は0.5%前後です。
参考:独立行政法人日本学生支援機構「貸与利率」/https://www.jasso.go.jp/shogakukin/about/taiyo/taiyo_2shu/riritsu/index.html
ただし、「何を学ぶか」によってリターンは大きく変わります。目的なく大学に通い、漫然と4年間を過ごすための借金は、良い借金とは呼べません。奨学金の善し悪しは、金額ではなく、その先に何を得るかの解像度で決まります。
悪い借金の例
① リボ払い──「考えない」ことの代償
悪い借金の筆頭が、リボルビング払い(リボ払い)です。
リボ払いの年利は15%前後。住宅ローンの約20〜50倍です。「毎月の支払いが一定だから楽」という触れ込みですが、その裏では元本がほとんど減らず、利息が雪だるま式に膨らんでいきます。
【リボ払いの危険性──具体例】
10万円をリボ払い(毎月5,000円返済・年利15%)にした場合:
- 完済まで:約24ヶ月
- 支払総額:約114,000円
- 利息だけで約14,000円の損失
10万円でこの差。これが50万円、100万円になると、利息は数十万円規模に膨らみます。
リボ払いの本質的な問題は、金利の高さだけではありません。「いくら借りているか、考えなくて済む仕組み」になっていることです。毎月の支払額が一定だから、借金の総額が見えなくなる。見えないから、さらに買い物を重ねる。
広告運用者として言わせてもらえば、これは「管理画面を見ずに広告を出し続ける」のと同じ行為です。数字を見ない出費は、必ず膨らみます。私が毎日データと向き合うのは、お金の流れから目を離した瞬間に、お金は逃げていくと知っているからです。
② 生活費の補填としての借金
収入を超えた生活水準を維持するための借金は、悪い借金の典型です。収入が月25万円なのに月30万円の生活をして、差額をカードローンで埋める。これを続ければ、借金は確実に膨らみます。ラチェット効果──一度上げた生活水準は下げられない──が働くため、収入が借金で「水増し」されている状態に慣れてしまうと、元に戻すのは想像以上に困難です。
③ 見栄のための借金
高級車、ブランド品、身の丈を超えた結婚式──他人に見せるための消費は、借りた瞬間から価値が下がり続けます。新車は購入した瞬間に価値の20%が消えるとされています。これらの借金は、資産を生まず、自己肯定感も長続きしない。残るのは返済義務だけです。
「借りない」ことの隠れたコスト
ここまで読んで、「やっぱり借金はしないほうがいい」と感じた方もいるかもしれません。確かに、悪い借金は避けるべきです。
しかし、「すべての借金を避ける」という判断にも、見えないコストがあることは知っておくべきです。
たとえば、自己投資のチャンスが目の前にあるのに、「借金が怖いから」と見送る。起業のタイミングが来ているのに、「貯金が貯まるまで待とう」と先延ばしにする。経済学では、これを機会費用(Opportunity Cost)と呼びます。「借りなかったこと」によって失われた可能性の価値です。
100万円の自己投資を借金で行い、3年後に月収が10万円上がったとします。年間120万円の増収。5年で600万円。100万円の借金は、5年で600万円のリターンを生んだことになる。一方、「借金が怖いから」と見送っていたら、その600万円は存在しなかった。
もちろん、すべての投資が成功するわけではありません。しかし、「借りること自体をリスクと見なす」発想は、実は最大のリスクを見落としている可能性がある──この視点は持っておく価値があります。
もうひとつ見落とされがちなのが、インフレと借金の関係です。物価が上がりお金の価値が下がる局面では、固定金利で借りた住宅ローンなどの実質的な負担は、むしろ軽くなります。
そもそも「貯金は減らないから安全」という前提自体が、インフレ環境では崩れている──この構造は別の記事で整理しています。
レバレッジには「損切り」がセットである──痛みを知る者として
ここで、公平のために、私自身の失敗も書いておきます。
私は2020年に、投資で900万円を溶かしています。お金を働かせる側の人間でも、リターンの読みを誤れば、この規模で資金は消えるのです。
この経験から言えるのは、レバレッジという武器には、必ず「損切り」という安全装置をセットで持たなければならない、ということです。広告運用でも、鉄則は同じです。回収の見込みが立たない広告は、どれだけ手をかけていても、即座に止める。傷が浅いうちに撤退するから、次の勝負ができる。
借金も同じです。「ここまでは借りる。ここから先は、計画が狂ったら撤退する」という線を、借りる前に引いておく。この線を持たずにレバレッジをかけるのは、ブレーキのない車でアクセルを踏むようなものです。
冒頭で「借金は道具だ」と言いましたが、道具として使うための条件が、この撤退線です。
良い借金か悪い借金か──5つの判断基準
目の前の借金が「良い借金」か「悪い借金」かを見分けるための判断基準を共有します。
【良い借金 vs 悪い借金──5つの判断基準】
- リターンがあるか?──借りたお金は、将来的にそれ以上の価値(収入・スキル・資産)を生むか?
- 返済計画が現実的か?──月々の返済額は、生活を圧迫しない範囲に収まっているか?
- 金利は適正か?──住宅ローン(0.3〜1%)や奨学金(0.5%前後)は適正。リボ払い(15%)やカードローン(3〜18%)は危険水域。
- 「消費」か「投資」か?──そのお金は、使った瞬間に価値がなくなるか、時間とともに価値を生むか?
- 撤退線はあるか?──計画が狂ったとき、どこで損切りするかを借りる前に決めているか?
5つすべてを満たす必要はありません。ただ、ひとつも考えずに借りることだけは、絶対に避けるべきです。考えない借金は、すべて悪い借金になります。
借金の本質は「未来の自分への信頼」である
良い借金の根底にあるのは、「未来の自分は、今の自分より成長している」という信頼です。
今は返せない額でも、3年後の自分なら返せる。なぜなら、この借金で手に入れる知識やスキルが、自分を成長させてくれるから。──これが、良い借金の本質です。
逆に、悪い借金は「今の自分の欲望」に負けた結果です。未来の自分に返済という負担を押しつけ、今の快楽を先に受け取る。未来の自分を信じているのではなく、未来の自分を犠牲にしている。
「借金=悪」と思い込んでいる人は、チャンスが来ても動けません。「すべての借金=OK」と思っている人は、破滅します。
大切なのは、判断基準を持つことです。お金を先に投じて働かせる仕事を日々続けている私からの、実感を込めた結論です。
借金への向き合い方は、突き詰めれば「人生の設計図を誰が描くか」という問いにつながります。貯金を守るだけの人生か、未来の自分に賭ける人生か。
お金と時間の使い方を見直し、自分らしく生きるためのヒントは、著書(Amazon kindle ランキング 5冠を達成した電子書籍)『あ、常識とかいいんで、とりあえず自由ください。』にも綴っています。下記より無料でお読みいただけます。
また、リスクとの距離感を自分で決め、雇用に頼らない収入の軸を実際に築いてきた方々の声も、判断基準を磨く材料になるはずです。「借りる勇気」と「借りない賢さ」の使い分けを、具体の人生から感じ取っていただければと思います。

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