収入の柱を複数持て──リスクヘッジの話になると、必ず出てくる定番の助言です。
本業のほかにもう1本、できれば3本。それ自体は正しい。ただ、この助言には抜けている視点があります。
私はかつて、収入の柱を2本持っていました。プロボクサーとしてのファイトマネーと、生活費を支える飲食店のアルバイト。そして、その2本は同時に倒れました。
あの失敗から学んだことを、先に置きます。
収入の柱は「本数」ではなく「相関性」で考える。同じ地盤に立っている柱は、何本あっても一緒に崩れるのです。
パーソル総合研究所の2025年調査では、日本の正社員の副業実施率は11.0%と過去最高を記録し、男性20代では20.2%に達しています。副業はもう珍しい話ではありません。だからこそ、いま問われているのは「柱を増やすかどうか」ではなく、どんな組み合わせで立てるかです。
参考:パーソル総合研究所「第四回 副業の実態・意識に関する定量調査」(2025年10月)/https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/data/sidejob4/
この記事では、2本の柱が同時に倒れた私の実体験から始めて、収入源を4タイプに分ける地図、共倒れを生む「相関性の罠」、コア・サテライト・実験の3層設計、柱を増やす順番までを整理します。

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私は柱を2本持っていて、同時に失った
20代の私の収入源は、2つありました。ボクシングの試合で得るファイトマネーと、飲食店のアルバイト代。稼ぎ方の性質はまるで違います。片方は試合の報酬、片方は時給。帳簿の上では、立派に「複数の柱」でした。
ところが、実際の生活はこうでした。
試合が近づくと、減量と練習に集中するためにシフトを削るしかなく、バイト代が落ちる。逆にバイトを増やせば、練習時間と体力が削られて、肝心の試合が危うくなる。
2本の柱は支え合うどころか、互いの土台を食い合っていたのです。
いま振り返れば、理由は単純です。
ファイトマネーもバイト代も、「私という一つの身体が動くこと」で成り立っていました。柱は2本でも、立っている地盤は1枚。だから、身体という地盤が揺れれば2本同時に揺れる。
そして引退を決めた日、ファイトマネーという柱は根元から消えました。残ったのは、時給で切り売りする身体ひとつ。あまりにも心細かったので、ダブルワーク、さらにトリプルワークへと。フリーターとして30社以上の職場を渡り歩き、バイトを掛け持ちしました。
ところが、柱の本数だけならむしろ増えたのに、安心はまったく増えませんでした。体調を崩せば、全部のシフトが同時に飛ぶからです。
この時期に身体で覚えたことが、この記事の背骨です。
柱の本数は、安心の指標にならない。
数えるべきは本数ではなく、その柱たちが同じ地盤に立っていないかどうかでした。
結論──柱を数える前に、柱が立つ「地盤」を見る
相関性という言葉を、かみ砕いておきます。
2つの収入源が「同じ出来事で、同じ方向に動く度合い」のことです。
相関が高い柱は、好調も不調も一緒。リスクヘッジとしては、実質1本と変わらないのです。
たとえば、IT企業の会社員が、副業でプログラミングの業務委託を受け、余剰資金でIT企業の株を買っているとします。本数は3本。
けれど、業界の景気後退がひとつ来れば、給与も案件も株価も同じ方向に沈みます。これは分散ではなく、同じ地盤に3本の柱を密集させた状態です。
一方、同じIT会社員が、業界も稼ぎ方も違うストック型の柱──たとえば広告収入型のブログやコンテンツ販売──を1本だけ育てたとします。本数は2本に減りますが、地盤が分かれるため、片方が沈んでももう片方は立ち続ける。
「本数の少ない本物の分散」は、「本数の多い偽物の分散」より強いのです。
資産運用の世界では、値動きの異なる資産を組み合わせるのは基本中の基本です。ところが収入設計の話になると、なぜか「とにかく本数を増やせ」に化けてしまう。
柱を立てる前に、地面を見る。この一手間が、設計術のほぼすべてです。
収入源の4分類マトリクス──地盤を見分ける2軸の地図
では、地盤の違いをどう見分けるか。私が長年使ってきたのは、収入源を2つの軸で切る自前の地図です。
【収入源を分類する2つの軸】
- 労働 × 非労働──自分の時間と身体を直接差し出すか、仕組みや資産が代わりに稼ぐか。
- フロー × ストック──収益がその場で完結するか、蓄積されて翌月以降も収益を生むか。
掛け合わせると、収入源は4タイプに分かれます。

タイプA:労働×フロー──会社員給与・時給バイト・受託案件
自分の時間をそのままお金に換える働き方です。給与、アルバイト、単発の受託案件。安定性と即金性が高く、生活の土台として欠かせない一方、稼働が止まれば収入もゼロになります。ボクサー時代の私の2本は、両方ここでした。
タイプB:労働×ストック──顧問契約・継続コンサル・サブスク型サービス
自分が働くけれど、成果が継続契約として翌月以降も残るタイプです。月額顧問、継続コンサルティング、サブスク型サービスなど。毎月ゼロから営業し直さなくてよいぶん、同じ労働でもフロー型より効率が上がります。
タイプC:非労働×フロー──物販・転売・スポット投資
労働への依存は薄いものの、収益が一回ごとに完結するタイプ。物販や転売、資産の売却益などです。仕組みは効いていても、次の収益にはまた次の取引が要るという構造です。
タイプD:非労働×ストック──広告型ブログ・コンテンツ販売・配当・家賃
一度作った仕組みや資産が、自分が手を止めていても収益を生み続けるタイプです。広告収入型のブログ、デジタルコンテンツ販売、配当、家賃収入。立ち上げは重いのですが、軌道に乗ると時間と収入が切り離されます。
私が初めてタイプDの収益を見たのは、ネット起業の世界に入ってからでした。
眠っている間に積み上がった数字を朝に確認したとき、ボクサー時代からずっと「身体が動いてこそ」だった自分の価値観が、根本からひっくり返ったのを覚えています。地盤が「自分の身体」の外にある収入は、それまでの人生に一度もなかったからです。
タイプDの代表格が、ブログ・YouTube・Podcastといった個人メディアです。SNSという「借地」と違って自分の資産として蓄積されるため、柱の地盤としては特に優秀です。
各メディアの特性と選び方は、別の記事で整理しています。
3本でも共倒れする「相関性の罠」──会社員の罠と、独立者の罠
4分類の地図を手にすると、よくある「増やしたのに危ないまま」のパターンが見えてきます。同じタイプの中で本数を増やしても、地盤は1枚のままだからです。
典型は4つあります。
【相関性が高くなる4つの典型】
- 同業界依存──本業も副業も投資もIT系。業界が冷えれば全部が同時に揺れる。
- 同スキル依存──英語力だけで本業・翻訳副業・教材販売。AI翻訳の進化ひとつで全部が陳腐化しうる。
- 同顧客層・同経路依存──収入源がすべて同じプラットフォームや同じ取引先を経由。アカウント停止や契約終了で一気に消える。
- 同時間軸依存──全部が自分の労働時間を食うタイプ。体調を崩せば全部止まる。かつての私です。
会社員だけの話ではありません。独立後の私も、この罠を構造として抱えていた時期があります。
私の月収は、良い時期には600万円を超え、悪い月には11万円まで落ちました。正直に言えば、この乱高下で心が折れることはありませんでした。安心の拠り所を口座の残高ではなく「また稼げる力」に置けていたからです。
ただ、動揺しなかったことと、設計として正しかったことは、別の話です。
振れ幅そのものを生んだ一因は、収益の柱が複数あるように見えて、集客の経路がほぼ一つに寄っていたこと。商品や仕組みが何個あっても、入口が同じなら、地盤は1枚。独立者の「複数の柱」は、売り物の数ではなく、集客の道の数で数えるべきでした。
さらにもうひとつ、地盤の違いには時間差の効用があります。
フロー型の柱は止まると即ゼロですが、ストック型の柱は本業が止まってもしばらく収益が続く。この「倒れるタイミングのズレ」こそが、本物の安全網です。
なお、フロー型とストック型では成果が出るまでの期間も桁から違います。現実的な目安は、調査データと実体験から別の記事にまとめました。
コア・サテライト・実験──70/20/10の3層で設計する
地盤の違う柱を、どんな比率で組み合わせるか。資産運用のコア・サテライト戦略を収入設計に応用して、私は3層で考えています。
【収入の柱の3層設計】
- コア(70%)──生活を確実に支える安定柱。多くの人は本業の給与(タイプA)。役割は攻めることではなく、食う・住む・寝るを守ること。
- サテライト(20%)──コアと地盤の違う、将来の主軸候補。タイプBやタイプDが中心。時間と労力を注いで育てる柱。
- 実験(10%)──すぐには収益化しない小さな種。新スキルの習得、新領域での発信、少額投資。1年後にサテライトへ育つ芽を複数蒔いておく。
この3層でいちばん間違えやすいのが、サテライト選びです。コアがIT系の会社員なら、サテライトもIT系の副業を選びたくなります。得意分野だから当然です。
けれど、相関性の観点では逆で、業界・スキル・顧客層のどれかがコアと重ならない領域を選ぶほうが、ポートフォリオ全体は強くなります。
得意を活かす発想と、地盤を分ける発想。両方を満たす場所を探すのが、サテライト選びの本体です。
なお、このサテライトを「本業のサブ」ではなく「将来の本業候補」として扱う心構えを、副業と複業という言葉の違いから整理しました。柱を育てる前提の発想論として、あわせてどうぞ。
自分の現状を知りたければ、いまの収入源をすべて書き出して、4分類のどこに落ちるかを塗ってみてください。1マスに全部が固まっていたら、本数が何本でも、設計上は1本です。

柱を増やす順番──同時に立てると、全部が中途半端に終わる
設計図ができても、3本を同時に立ち上げようとすると、たいてい全滅します。立ち上げ期に最も消費されるのは、お金ではなく時間と気力という有限資源だからです。
本業をこなしながら副業を3つ始めて、投資の勉強も並行する──これを2か月続けて燃え尽きる人を、私は何人も見てきました。
順番は、次の4ステップで固定してしまうのがおすすめです。
【柱を増やす推奨順序】
- コアを固める──本業(または主力収入)を安定させ、生活防衛資金として生活費の6〜12か月分を確保する。
- サテライトを「1本だけ」立ち上げる──コアと地盤の違うタイプ(理想はタイプD)を選ぶ。複数同時は禁止。
- 月3〜5万円を超えてから次を考える──最初のサテライトが軌道に乗る前に2本目に手を出すと、両方が枯れる。
- 実験は低コストの範囲で常時並行──消耗しない範囲で、小さな種だけは蒔き続ける。
ステップ2で決めるべきは、何をやるかより、何をやらないかです。選択肢を増やす方向で調べ続ける限り、最初の一歩は永遠に出ません。引き算で1本に絞る方法は、副業の第一歩を扱った別の記事で詳しく書きました。
収入の分散は、人生の選択権の分散である
最後に、この設計術が本当に守っているものの話をします。
収入が1本柱だと、その柱を握っている相手の意向に、人生ごと従うことになります。理不尽な異動、納得できない評価、価値観の合わない環境。それでも「ノー」と言えないのは、勇気の問題ではなく、構造の問題です。断った瞬間に生活が止まる設計になっているなら、誰だって言えません。
逆に、地盤の違う柱がもう1本あれば、同じ場面で選択肢が生まれます。
収入のリスクヘッジは、お金の話の顔をした、人生の選択権の話です。
プロボクサー時代の私に柱の設計を教えたかった理由も、突き詰めればここにあります。別のタイプの柱を1本でも育てておけたなら、身体ひとつに人生を預けず、もっと思い切りボクシングに賭けられたはずだからです。
雇われて働くこと自体は、何も悪くありません。危ういのは「それしかない」という状態のほうです。雇われる構造の限界と、自分で稼ぐ柱を持つ発想は、別の記事で根本から掘り下げています。
おわりに──地面を確かめてから、次の柱を立てる
収入の柱を複数持つリスクヘッジ戦略の要点は、結局ひとつです。
柱を数える前に、地面を見る。同じ地盤の3本より、地盤の違う2本。増やすときは1本ずつ、コアと重ならない場所へ。
幸い、いまは個人が2本目の柱を持つハードルが、歴史上いちばん下がっている時代です。かつて企業しか持てなかった生産と流通の仕組みが、個人の手に届くようになりました。
この「レバレッジの民主化」がなぜ起きたのかは、別の記事で整理しています。
私自身がいま柱の軸に据えているGoogleリスティングアフィリエイトは、本業と地盤の重なりにくいタイプC〜Dの柱を、一人で育てやすい分野です。具体的な始め方と考え方は、『Googleリスティングアフィリエイト大全』として無料公開しているので、サテライトの候補を探している方は検討材料にしてみてください。
身体ひとつの地盤から始まり、柱を失い、掛け持ちでしのぎ、仕組みという別の地盤に出会って人生の設計図を引き直すまでの道のりは、著書(Amazon kindle ランキング 5冠を達成した電子書籍)『あ、常識とかいいんで、とりあえず自由ください。』に綴りました。柱の一本目しか持っていなかった頃の自分に向けて書いた本でもあります。下記より無料でお読みいただけます。
今夜、紙を1枚用意して、いまの収入源を全部書き出してみてください。それぞれがどの地盤に立っているか。同じマスに固まっていたら、次に立てるべき柱の場所は、もう決まっています。

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