英語ができると、年収は上がるのか。
これは、英語学習を始める大人にとって、かなり現実的な問いです。趣味として学ぶなら別ですが、仕事やキャリアのために英語を学ぶなら、「その投資に見合うリターンはあるのか」を知りたくなるのは自然なことです。
結論から言えば、英語力と年収には一定の相関があります。たとえば日経転職版の大卒年収調査をもとにしたTOEICスコア別データでは、TOEIC499点以下の平均年収が703.3万円であるのに対し、900点台は903.7万円。差額は200.4万円、比率にすると約28.5%(約29%)です。
ただし、この数字を「英語を勉強すれば、誰でも年収が29%上がる」と読むのは危険です。英語力が高い人ほど、もともと高年収になりやすい職種・業界・学歴・経験を持っている可能性もあるからです。
この記事では、英語力と年収の関係を、TOEIC・TOEFL・国内外の調査データから冷静に整理します。そのうえで、英語を「年収を上げる魔法」ではなく、専門性や経験と掛け合わせて市場価値を押し上げるレバレッジとしてどう捉えるべきかを考えていきます。
英語ができる人は本当に年収が高いのか
まず、データを見ておきましょう。
アルク『ENGLISH JOURNAL』が日経転職版の大卒年収調査2022年版をもとに整理したTOEICスコア別平均年収では、スコアが高くなるほど平均年収も上がる傾向が示されています。
【TOEICスコア別の平均年収】
- 499点以下──703.3万円
- 500〜599点──734.4万円
- 600〜699点──750.8万円
- 700〜799点──805.4万円
- 800〜899点──855.1万円
- 900〜990点──903.7万円
参考:ENGLISH JOURNAL「TOEICスコアで年収が上がる?平均年収とスコアの相関関係を解説」/https://ej.alc.co.jp/entry/toeic-annual-income
499点以下と900点台の差は200.4万円。比率で見ると、900点台の平均年収は499点以下より約28.5%高い計算になります。
ここから、この記事では便宜上「英語力が高い層では、平均年収が約29%高いデータがある」と表現します。ただし、これはあくまでTOEICスコア別の平均年収データから計算した差であり、英語学習だけの純粋な因果効果ではありません。
もうひとつ、転職サービスdodaグローバルの集計でも、TOEICスコアと平均年収の相関が示されています。TOEIC800点の平均年収は487万円、900点の平均年収は534万円。特に700点台以上から、スコアと年収の関係が明確になったとされています。
参考:dodaグローバル「TOEICスコアが高いほど年収は高い!スコア別平均年収と転職成功アドバイス」/https://doda.jp/global/guide/004.html
また、外資系・グローバル企業向けの人材紹介会社エンワールド・ジャパンの調査では、英語レベル「上級」の人の約60%が年収1,000万円以上である一方、初級レベルでは約10〜12%にとどまると報告されています。
参考:エンワールド・ジャパン「英語レベル『上級』では、年収1,000万円以上が約60%」/https://www.enworld.com/newsrelease/english_level_salary.html
複数のデータを総合すると、「英語力が高い人ほど年収も高い傾向がある」という相関は、かなり一貫して見えてきます。
「年収が平均29%上がるデータ」の正しい読み方
ここで、最も大事な注意点を置いておきます。
英語力と年収には相関がある。しかし、英語だけが年収を29%押し上げているとは限らない。
この区別を曖昧にすると、記事は一気に怪しくなります。「英語をやれば年収が上がる」「TOEIC900点を取れば200万円増える」といった言い方は、読者にとって分かりやすい一方で、データの読み方としては乱暴です。
なぜなら、TOEIC900点台の人は、英語力以外にも高年収につながりやすい特徴を持っている可能性があるからです。
【英語力と年収の相関に影響しうる要因】
- 職種──コンサル、IT、金融、商社、海外営業など、高年収職種に英語需要が多い。
- 業界──外資系・グローバル企業は給与水準が高い傾向がある。
- 学歴・学習歴──高い英語力を持つ人は、学習習慣や教育機会にも恵まれている場合がある。
- 海外経験──留学・駐在・国際業務経験が、英語力と年収の両方を押し上げる。
- 専門性──英語に加えて、技術・営業・マネジメント・マーケティングなどの武器を持っている。
つまり、「英語ができるから高年収」なのか、「高年収になりやすい環境にいる人が英語もできる」のか、あるいはその両方なのかを切り分ける必要があります。
この「相関と因果の違い」は、読書量と年収の関係でも同じです。本を読む人ほど年収が高い傾向はあっても、「本を読めば必ず年収が上がる」とは言えない。データの読み方として重要な視点は、別の記事でも詳しく整理しています。
英語学習も同じです。英語は市場価値を高める可能性があります。しかし、英語だけで市場価値が決まるわけではありません。
TOEICと年収──国内ビジネスでは最も見られやすい指標
日本で「英語力と年収」を語るとき、最も使われやすい指標はTOEICです。
TOEIC(Test of English for International Communication)は、職場やビジネス場面で使われる英語コミュニケーション能力を測るテストとして広く利用されています。日本企業の採用、昇進、海外赴任、グローバル部門への配属条件として、TOEICスコアが目安になるケースも少なくありません。
参考:ETS「The TOEIC Tests」/https://www.ets.org/toeic
実際、dodaグローバルの記事でも、TOEICは求人応募時や書類選考で英語力を把握するための指標として使われやすいと説明されています。特に中途採用では、企業側が短時間で英語力を判断する必要があるため、TOEICスコアは分かりやすいシグナルになります。
ただし、TOEICには限界もあります。一般的なTOEIC Listening & Readingは、聞く・読む力を測るテストであり、話す・書く力を直接測るものではありません。ビジネスの現場では、メールを書く、会議で発言する、交渉する、プレゼンする、といった運用力が問われます。
だから、TOEICは「年収を上げる魔法のスコア」ではありません。より正確には、高待遇のポジションへ応募するための入口を広げるシグナルです。
TOEICで目安になりやすいライン
年収データを見ると、ひとつの節目は700点台です。アルクの記事でも、600点台までは平均年収に大きな差が出にくい一方、700点台から年収が上がる傾向が見られると整理されています。
もちろん、点数だけで人生が変わるわけではありません。しかし転職市場や社内評価で「英語を使う仕事に応募できるか」「グローバル部門の候補になるか」を考えると、700点、800点、900点という段階には一定の意味があります。
【TOEICスコアの実務上の目安】
- 600点台──基礎的な英語力の証明。応募条件の最低ラインになることがある。
- 700点台──英語を使う部署・職種への入口として見られやすい。
- 800点台──英語力を強みとして履歴書に書きやすい。
- 900点台──高い英語処理能力のシグナル。ただし実務運用力の確認は別途必要。
TOEICは、英語力そのものというより、採用市場での「読みやすい名刺」です。その名刺をどう使うかは、専門性と実務経験によって決まります。
TOEFLと年収──直接の年収データより「海外への入口」として見る
では、TOEFLはどうでしょうか。
TOEFL iBTは、大学や大学院などアカデミックな環境で必要とされる英語力を測るテストです。ETSによれば、TOEFLは世界160カ国以上・13,000以上の機関で認められており、読む・聞く・話す・書くの4技能を、実際の授業やキャンパスで使う文脈に近い形で測ります。
参考:ETS「TOEFL English Language Test」/https://www.ets.org/toefl/
日本国内の転職市場では、TOEICほどTOEFLスコアが直接年収データに結びついて語られることは多くありません。これは、TOEFLが主に海外大学・大学院・アカデミック英語の文脈で使われる試験だからです。
ただし、TOEFLが年収と無関係という意味ではありません。むしろ、TOEFLは年収が高くなりやすいキャリアへの入口になり得ます。
【TOEFLが効きやすいキャリア文脈】
- 海外大学・大学院への進学
- MBAや国際系大学院への出願
- 研究・学術・国際機関へのキャリア形成
- 海外就職・海外移住の準備
- 英語で学び、英語で専門性を深めるルート
つまり、TOEICが国内ビジネス市場での「英語力の見える化」に強いのに対し、TOEFLは海外の教育・研究・グローバル環境へ接続するための「通行証」に近い。
年収アップを短期で狙うならTOEICのほうが求人条件に結びつきやすい。一方、海外大学院、MBA、研究職、国際キャリアまで視野に入れるならTOEFLの価値は大きい。ここは目的によって使い分けるべきです。
英語が年収に効く3つの理由
では、なぜ英語力は年収と結びつきやすいのでしょうか。
理由は、単に「英語が話せるからすごい」ではありません。英語が、仕事の選択肢と情報アクセスを広げるからです。
① 応募できる市場が広がる
英語が使えると、応募できる求人の範囲が広がります。
外資系企業、海外営業、グローバルマーケティング、貿易、国際法務、IT、SaaS、コンサルティング、研究開発、ホテル・観光、航空、教育。英語力を条件にする職種は多く、そこには日本語だけの市場とは異なる給与水準が存在します。
労働市場では、需要があり供給が少ないスキルほど価値が上がります。英語は単体では珍しくなくなってきましたが、専門性と組み合わさった英語は、今でも強い。
② 情報アクセスが早くなる
英語ができると、情報の到達速度が変わります。
テクノロジー、マーケティング、AI、投資、医学、研究、海外市場。多くの一次情報は英語で出ます。日本語に翻訳される頃には、すでに数ヶ月〜数年遅れていることも珍しくありません。
英語で一次情報にアクセスできる人は、学習の速度が上がります。学習の速度が上がると、意思決定の質が変わる。意思決定の質が変わると、キャリアや事業の成果にも影響する。
これは「英語が話せる」以上に、英語の大きな価値です。英語は、世界の知識データベースに直接アクセスするためのインターフェースなのです。
③ 専門性の単価が上がる
英語が年収に効く最大の理由は、専門性との掛け算です。
英語だけができる人は、昔ほど希少ではありません。しかし、次のような組み合わせになると市場価値は一気に変わります。
【英語と掛け算されると強い専門性】
- IT × 英語──海外ドキュメント、外資SaaS、グローバル開発
- 営業 × 英語──海外顧客、輸出入、商談、パートナー開拓
- マーケティング × 英語──海外広告、海外SEO、英語圏リサーチ
- 法務・財務 × 英語──契約書、M&A、国際会計
- 研究・医療 × 英語──論文、国際学会、海外共同研究
英語は主役というより、専門性の届く範囲を広げる拡張装置です。すでに持っているスキルに英語が乗ると、戦える市場が日本語圏から英語圏へ広がります。
英語だけでは稼げない──掛け算されて初めて価値になる
ここは、かなり重要です。
英語ができるだけで自動的に年収が上がる時代ではありません。
翻訳ツール、AI通訳、生成AIの進化によって、単純な読解・翻訳・定型メール作成の価値は下がっています。今後は、「英語ができる」だけではなく、英語で何を判断し、何を作り、誰と交渉し、どんな成果を出せるかが問われます。
つまり、英語は単独の商品ではなく、掛け算の要素です。
【英語が年収に変わる条件】
- 英語を使うポジションに応募している。
- 英語以外の専門性を持っている。
- 実務で英語を使う機会を取りに行っている。
- TOEIC・TOEFLをスコアで終わらせず、読む・書く・話すに変換している。
- 英語で得た情報を、仕事の判断や成果に変えている。
英語学習を年収アップにつなげたいなら、「英語を勉強する」だけでは不十分です。英語を使う場所へ、自分を配置し直す必要があります。
これは、学歴の有無よりも「どこに立つか」が人生を左右するという話にも通じます。能力そのものより、能力が評価される場所に身を置けるかどうか。その視点は、別の記事でも整理しています。
私の視点──英語は「自由度」を広げるスキルである
私は、英語を「年収を上げるためだけのスキル」として見るのは少し狭いと感じています。
もちろん、年収との相関データは重要です。大人が時間とお金を投じる以上、リターンを考えるのは当然です。けれど、英語の本当の価値は、もう少し静かなところにあると思うのです。
英語が読めれば、海外の一次情報に触れられます。翻訳される前の知識にアクセスできる。海外の広告、LP、ビジネスモデル、ツール、研究、思想に触れられる。日本語圏の常識だけで判断しなくてよくなる。
私自身、ネットビジネスや広告運用に取り組むなかで、海外の情報から学ぶ価値を何度も感じてきました。英語が完璧でなくても、海外の一次情報を読む姿勢があるだけで、見える景色は変わります。日本語で誰かが解説してくれるのを待つのではなく、自分で原典に近づけるからです。
これは、当サイトSRSの根本にある「自分の手で人生のラフ案を描く」という感覚とも重なります。英語は、誰かに従うためのスキルではありません。自分で選べる情報源、自分で選べる働き方、自分で選べる市場を増やすスキルです。
年収は、その結果として上がるかもしれない。けれど、その前に増えるのは、選択肢です。
大人が英語学習に投資するなら、どこから始めるべきか
では、大人が英語学習に投資するなら、どこから始めるべきでしょうか。
ポイントは、目的を曖昧にしないことです。「英語ができるようになりたい」では広すぎます。TOEICなのか、TOEFLなのか、英会話なのか、英文読解なのか、仕事のメールなのか。目的によって、学習設計は変わります。
① 国内転職・昇進ならTOEICを入口にする
国内企業の転職・昇進・配属を意識するなら、まずTOEICが現実的です。
理由はシンプルで、企業側が見慣れているからです。履歴書に書ける。求人条件と照合される。自分の現在地も分かりやすい。特に700点、800点、900点という段階は、キャリア上のシグナルとして機能しやすい。
ただし、TOEIC学習だけで終わらせず、学んだ表現をメール、会議、資料読解に接続していくことが大切です。
② 海外進学・MBA・国際キャリアならTOEFLを視野に入れる
海外大学院、MBA、留学、国際機関、研究職を視野に入れるなら、TOEFLが選択肢になります。
TOEFLは4技能を測るため、負荷は高めです。しかし、そのぶん、英語で学び、議論し、書く力を鍛えやすい。短期の転職シグナルというより、長期のキャリア設計に効く試験です。
③ まず20時間だけ、目的を絞って投じる
英語学習は、範囲が広すぎるため挫折しがちです。
単語、文法、リスニング、スピーキング、ライティング、発音、TOEIC、TOEFL、英会話、ビジネスメール──全部を一気にやろうとすれば、たいてい止まります。
だから最初は、目的をひとつに絞るのが現実的です。
【最初の20時間で絞る英語学習の例】
- TOEICのPart 5だけを20時間やる。
- 仕事で使う英文メールの型だけを20時間練習する。
- 海外記事を読むための語彙だけを20時間集める。
- TOEFLのWritingだけを20時間添削・練習する。
- 自己紹介と自分の仕事説明だけを英語で言えるようにする。
新しいスキルは、最初から全体を取りに行かないほうが続きます。20時間で「少し使える」状態まで持っていく学習設計は、英語学習とも相性がいい。詳しい考え方は、20時間の法則の記事で整理しています。
④ 学習を「年収」だけに閉じ込めない
年収アップを目的に英語を学ぶのは、悪いことではありません。
ただ、それだけだと学習が義務になりやすい。スコアが伸びない時期に、すぐに苦しくなります。
英語は、学びそのものが無形資産になります。知識、情報、経験へのアクセスが増える。海外の人とつながれる。日本語圏の常識から少し距離を取れる。こうしたリターンは、すぐ年収に反映されなくても、長期的には大きな資産です。
お金を知識や経験に変換する自己投資の考え方については、別の記事でも詳しく書いています。
おわりに──英語は年収より先に、選択肢を増やす
英語力と年収には相関があります。
TOEICスコア別平均年収データでは、499点以下と900点台で約29%の差がありました。エンワールド・ジャパンの調査でも、英語レベルが高い人ほど年収1,000万円以上の割合が高い傾向が示されています。
しかし、英語だけで年収が決まるわけではありません。英語は、専門性、経験、職種、業界、配置と掛け合わさって初めて、市場価値に変わります。
TOEICは、国内ビジネス市場で英語力を見える化するシグナルになります。TOEFLは、海外進学や国際キャリアへの入口になります。どちらを選ぶかは、年収を上げたいのか、海外で学びたいのか、専門性を英語圏へ広げたいのかによって変わります。
英語は、年収を直接上げる魔法ではなく、選べる市場を広げるためのレバレッジです。
年収は、その結果として上がることがあります。けれど、その前に増えるのは、読める情報、話せる相手、応募できる仕事、学べる環境、選べる未来です。
常識に縛られず、自分の価値観で学び直し、人生の選択肢を広げていく過程は、私の著書(Amazon kindle ランキング 5冠を達成した電子書籍)『あ、常識とかいいんで、とりあえず自由ください。』にも綴っています。英語学習もまた、誰かの正解に合わせるためではなく、自分の世界を広げるための小さな設計変更です。下記より無料でお読みいただけます。
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