「あなたの価値観は何ですか」と正面から聞かれて、すぐに言葉にできる人は多くありません。自分の価値観の見つけ方がわからないまま、なんとなく周りに合わせて選択を重ねている——それは、決して珍しい状態ではありません。
先に、この記事でいちばん伝えたいことを置いておきます。価値観は「どこかに埋まった正解を探し当てる」ものではなく、自分の感情と選択を手がかりに「掘り出して、言葉にする」ものです。生まれつき決まった一つの答えが、あなたの外側に隠されているわけではありません。
私はかつてプロボクサーで、その後は30以上の職を転々としたフリーターを経て、ネットで起業しました。世間のレールから何度も外れながら生きてきたぶん、「自分のものさしを持つこと」だけは、人より長く考え続けてきたと思います。その実感からも言えるのは、価値観は頭の中で考えて当てるものではなく、自分の行動の足あとから読み取るものだ、ということです。
この記事では、なぜ自分の価値観は見えにくいのかを整理したうえで、それを掘り出して言葉にするための5つのステップを具体的にお伝えします。心理学の知見と、私自身が遠回りして手に入れた考え方を重ねながら進めていきます。

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そもそも「自分の価値観」とは何か
価値観とは、ひとことで言えば「自分が何かを選ぶときの、判断の根っこ」です。どの仕事を選ぶか、誰と付き合うか、休日に何をするか——日々の無数の選択の奥で、静かに優先順位をつけている基準。それが価値観です。
社会心理学者のシャローム・シュワルツは、文化を越えて人間が共通して持つ価値を10種類に整理しました(自律、安全、達成、親切、伝統など)。世界20カ国の調査から、価値観には一定の普遍的な構造があり、しかも「何を優先するか」の順位は人によって大きく異なることが示されています。つまり、価値観の部品そのものは多くの人に共通していて、違うのは「並べ方」なのです。
参考:Schwartz, S. H. (1992). “Universals in the Content and Structure of Values” Advances in Experimental Social Psychology/https://doi.org/10.1016/S0065-2601(08)60281-6
ここで一つ、大切な区別があります。それは「価値観」と「目標」は違うということです。「家を買う」「役職に就く」はゴールで、達成すれば終わります。一方で「丁寧に暮らす」「誠実に人と関わる」は、たどり着いて終わるものではなく、ずっと向かい続ける方向そのものです。後者が価値観です。
私自身の言い方をすれば、価値観とは「人生という地図の、北の方角」のようなものだと考えています。目的地(ゴール)は人生の途中で何度も変わってかまわない。けれど、自分にとっての北がどこかを知っていれば、地図のどこにいても歩く向きを間違えません。価値観を言葉にするとは、この「自分の北」を見つける作業にほかなりません。
なぜ自分の価値観は「見えにくい」のか
価値観の見つけ方を学ぶ前に、知っておきたいことがあります。多くの人が自分の価値観を言葉にできないのは、能力の問題ではなく、価値観が「べき」と「世間の常識」に覆い隠されているからだ、という事実です。
心理学の自己決定理論(人が何にやる気を感じるかを説明する理論)では、行動の動機を大きく二つに分けます。「やらなければならない(べき)」という外側から来る動機と、「やりたい・心が動く」という内側から湧く動機です。研究では、自分の内側から出た動機にもとづく選択ほど、満足度や心の健康につながりやすいとされています。
参考:Deci, E. L., & Ryan, R. M. (2000). “The ‘What’ and ‘Why’ of Goal Pursuits” Psychological Inquiry/https://doi.org/10.1207/S15327965PLI1104_01
問題は、大人になるほど「べき」の声が大きくなることです。いい学校に行くべき、安定した仕事に就くべき、結婚すべき——こうした声を浴び続けるうちに、自分の「したい」は、聞こえないくらい小さくなっていきます。価値観が見えないのではなく、世間の音量に埋もれて聞こえないのです。
私はこの「べき」の重さを、痛いほど知っています。中学生のころ、田舎から熊本市に引っ越した私は、ある不安から必死に猛勉強して学年1位を取りました。けれど待っていたのは喜びではなく、「優等生でいなければ」という重圧でした。完璧な人物像を演じ続けるうちに、日常生活を送る中で、常に動悸や震えに苦しむほど心を壊しかけたのです。転機は、翌年、これまで以上に猛勉強をしたにもかかわらず、順位がグンと落ちたときでした。悔しさは皆無で、心の底から「ホッとした」。もう自分を偽る必要がないんだと。「みんな見てくれ!これが等身大の自分なんだ」と。あの瞬間、私は初めて気づきました。1位という他人の物差しは、私の価値観ではなかったのだ、と。
誰かに与えられた「べき」を脱いだとき、ようやく自分の「したい」が顔を出す。価値観を見つける作業は、新しい何かを足すことではなく、借り物の価値観を一枚ずつ脱いでいくことから始まります。
自分の価値観を見つける5つのステップ
ここからが本題です。価値観は頭で考えても出てきません。すでに済ませた自分の選択と、そのとき動いた感情を「証拠」として読み解くのが、いちばん確実な見つけ方です。順番に進めていきましょう。
ステップ1:心が大きく動いた瞬間を書き出す
まず、これまでの人生で感情が大きく動いた場面を、思いつくまま紙に書き出します。嬉しかったこと、誇らしかったこと、そして——ここが大事なのですが——強く腹が立ったこと、許せなかったことも含めてください。
感情は、価値観が反応しているサインです。とくに怒りは、自分が大切にしているものを踏みにじられたときに鳴る警報のようなものです。「なぜあの一言にあれほど傷ついたのか」を振り返ると、その裏に守りたかった価値が必ず隠れています。喜びだけでなく、怒りや違和感まで集めることで、価値観の輪郭がはっきりしてきます。
ステップ2:「なぜ」を3回掘り下げる
書き出した一つひとつに対して、「なぜそう感じたのか」を3回くり返して問うのがステップ2です。表面の出来事から、その奥にある基準へ降りていく作業です。
例:「同僚が手柄を横取りしたとき、強く腹が立った」
- なぜ腹が立った? → 自分の努力が正しく扱われなかったから
- なぜそれが許せない? → 努力と成果は正直に評価されるべきだと思っているから
- なぜそう思う? → 私は「誠実さ」を何より大切にしているから
→ 見えてきた価値観:誠実さ/フェアであること
このように「なぜ」を掘ると、出来事はバラバラでも、根っこでは同じ価値観につながっていることが見えてきます。私はビジネスでも、価値と価格を正直に伝え、相手が本当に必要としたときだけ対価を受け取ることにこだわってきました。その根っこをたどると、やはり同じ「誠実さ」に行き着きます。価値観は、一見無関係な選択の奥で、同じ根からつながっているものなのです。
ステップ3:「べき」と「したい」を仕分ける
掘り出した言葉を眺めると、その中には本当はあなたの価値観ではないものが混じっています。前の章で触れた「べき」、つまり世間や親から受け継いだ借り物の基準です。これを見分ける問いはとてもシンプルです。
「それを思い浮かべたとき、胸が少し動くか。それとも『やらなきゃ』という義務感のほうが強いか」——胸が動くなら、それはあなた自身の価値観。義務感が勝つなら、それは誰かから受け継いだ「べき」である可能性が高い。心が動くかどうかを、そのまま判定基準にしてください。
ここは妥協せずに仕分けてほしいところです。私の持論を言えば、価値観の言語化でいちばん難しいのは、足すことではなく「捨てること」です。本当に大切な3つにしぼるために、それらしく見える「べき」を手放す。プロとアマチュアの違いが「削る力」にあるのと同じで、自分の価値観も、削れた人ほど輪郭が鮮明になります。
ステップ4:価値観を「1行の言葉」にする
仕分けて残った価値を、1行の短い文(価値観ステートメント)にまとめます。単語のまま「自由」「誠実」と置いておくと抽象的すぎて、いざというとき使えません。「自分はどう生きたいのか」が行動レベルで見えるまで、言葉を具体化します。
単語 → 1行ステートメントの例
- 「自由」→ 時間と場所を自分で決められる働き方を選ぶ
- 「誠実」→ 価値に見合う対価だけを、正直に受け取る
- 「家族」→ 仕事の都合より、家族と過ごす時間を先に確保する
コツは、ゴール(達成して終わるもの)ではなく、方向(向かい続けるもの)で書くことです。「年収1000万円」はゴールですが、「お金より時間の自由を優先する」は方向です。終わりのない言い方になっていれば、それは価値観として正しく言語化できています。
ステップ5:日常の選択で使い、更新する
言葉にした価値観は、飾っておくものではありません。実際の選択で「使って」みて、初めて本物かどうかがわかります。転職、人付き合い、お金の使い方——迷ったときに自分のステートメントに照らし、「こっちのほうが自分の方向に合っている」と選んでみる。使ってみてしっくりこなければ、言葉を直せばいい。
そして忘れてはならないのが、価値観は固定するものではなく、更新し続けるものだということです。私は以前から、本を読み、人の話を批判せずに聞き、知らない文化に触れることで「自分のものさしをアップデートする」ことを意識してきました。価値観を見つけて終わりにせず、生きながら磨き直していく。その姿勢こそが、価値観を錆びさせない唯一の方法だと考えています。
見つけた価値観を「鈍らせない」ために
せっかく言葉にした価値観も、放っておくとまた「世間の音量」にかき消されていきます。最後に、自分のものさしを鈍らせないための考え方をお伝えします。
私がずっと意識しているのは、「常識とは、後から生まれる偏見の塊だ」という見方です。今の常識も、時代が変われば180度ひっくり返ります。だからこそ、常識を盾に「みんなそうしている」と判断するのではなく、自分のものさしで決める。もちろん人としてのマナーは別の話ですが、生き方の選択においては、多数派かどうかより「自分の方角に向いているか」を優先したい。これは私の譲れない信念です。
他人の価値観に飲み込まれず、自分の基準で判断する力については、その見分け方を別記事で詳しく整理しました。「気づけば他人軸で選んでいた」と感じる方は、あわせて読んでみてください。
また、価値観がはっきりしてくると、「成功」のような大きな言葉も、世間の定義ではなく自分の言葉で測り直せるようになります。自分にとっての成功を問い直す具体的な方法は、こちらの記事にまとめています。
常識を疑い、自分の価値観を軸に生き方を組み直す——この考え方の原点は、私の半生をつづった著書(Amazon kindle ランキング 5冠を達成した電子書籍)『あ、常識とかいいんで、とりあえず自由ください。』にも書きました。価値観をめぐる遠回りの実体験を、もう少し物語として読みたい方の参考になれば幸いです。
おわりに:価値観とは「体験の選び方」である
私は、人が最期にあの世へ持っていけるのは「体験」だけだと考えています。お金も地位も、現世に置いていくしかない。残るのは、自分がどんな時間を、誰と、どう過ごしたかという記憶だけです。
だとすれば、価値観とは結局のところ「どんな体験を選んで生きるかの基準」にほかなりません。価値観を言葉にすることは、自分の人生にどんな思い出を積み上げたいかを、自分の手で決め直すことです。
今日いきなり完璧な答えが出なくてもかまいません。心が動いた瞬間を一つ書き出すこと。その「なぜ」を一度だけ掘ってみること。そこから、あなたの方角は少しずつ見えてきます。借り物のものさしを置いて、自分の言葉で人生を測りはじめる——その小さな一歩を、今日から始めてみてください。

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