「借金だけは絶対にするな」──親からそう言われて育った人は、少なくないでしょう。
日本では「借金=悪」という意識が根強く、借りること自体に罪悪感を覚える人が多い。けれど、すべての借金が悪なのかといえば、答えはノーです。
住宅ローン、奨学金、ビジネスへの投資──世の中には「良い借金」と「悪い借金」があります。この2つを見分ける判断基準を持っているかどうかで、人生の選択肢の数は大きく変わります。
日本人はなぜ「借金=悪」と感じるのか
まず、前提を整理します。日本人の「借金アレルギー」は、個人の性格の問題ではありません。社会の仕組みがそう教えてきたのです。
戦後の「貯蓄奨励」政策
戦後の日本政府は、復興資金を集めるために国民に徹底的に貯蓄を奨励しました。「貯蓄は美徳」「借金は恥」──この価値観は、戦後教育とメディアを通じて数十年にわたって刷り込まれました。
その結果、日本の家計金融資産の約54%は今でも現金・預金です。アメリカでは現金・預金の割合は約13%で、残りは株式や投資信託などに振り分けられています。
参考:日本銀行「資金循環の日米欧比較」2024年8月/https://www.boj.or.jp/statistics/sj/sjhiq.pdf
貯蓄は確かに大切です。しかし、「貯蓄だけが正しい」という信念は、同時に「借りること=間違い」という思い込みを生みました。
終身雇用が支えた「借りなくていい人生」
もうひとつの要因は、終身雇用制度です。新卒で入社し、定年まで勤め、退職金をもらう。この人生設計が機能している間は、大きなリスクを取る必要がなかった。会社が人生の面倒を見てくれるのだから、自分で借金をしてまで何かに投資する理由がなかったのです。
しかし、その前提はすでに崩れています。終身雇用の保証はなくなり、退職金は減り続け、年金の受給額も不透明。それなのに、「借金=悪」という感覚だけが、当時のまま残っている。
雇われることの限界と、自分で稼ぐという発想への転換について、別の記事で詳しくお伝えしています。
「お金の話はしない」文化が判断力を奪う
そもそも日本では、家庭の中でお金の話がタブー視されています。借金の仕組みを教わることもなければ、ローンの金利計算を学ぶ機会もない。判断基準を持たないまま大人になるから、「よくわからないから怖い」「怖いから借りない」になる。
恐怖の正体は、無知です。知らないから怖い。怖いからすべて避ける。その結果、良い借金まで逃してしまう。
「良い借金」と「悪い借金」の構造的な違い
では、良い借金と悪い借金は何が違うのか。最も本質的な違いは、シンプルです。
【良い借金と悪い借金の見分け方】
- 良い借金:借りたお金が、将来的に「それ以上の価値」を生む。時間とともに自分の状況が良くなる
- 悪い借金:借りたお金が、消えてなくなる。時間とともに自分の状況が悪くなる
もう少し踏み込むと、良い借金は「未来の自分への投資」であり、悪い借金は「今の自分の欲望の先食い」です。
良い借金の例
① 自己投資のための借金
知識やスキルを身につけるために使うお金は、長期的に見れば最もリターンの高い投資です。セミナー、教材、専門的なトレーニング──これらに使ったお金は、数年後に何倍にもなって返ってくる可能性があります。
私自身、ネット起業の初期にまとまった金額を自己投資に使いました。当時は決して余裕があったわけではありません。けれど、そこで得た知識と経験が、その後の収入の基盤になっています。銀行口座の残高を眺めていただけでは、何も変わっていなかったでしょう。
② 住宅ローン
住宅ローンは、日本で最も一般的な「良い借金」の代表格です。変動金利であれば年0.3〜0.8%程度と、借金の中では圧倒的に低金利。さらに、住宅ローン控除による税制優遇、団体信用生命保険(万一の際に残債がゼロになる保障)が付きます。
賃貸の家賃は毎月消えていきますが、ローンの返済は自分の資産に変わっていく。この構造の違いは、30年という時間軸で見ると非常に大きい。
③ 奨学金
奨学金は本来「良い借金」に分類されます。教育を受けることで、生涯年収が上がる可能性が高い。日本学生支援機構の第二種奨学金でも金利は最大で年3%、現在は0.5%前後です。
参考:独立行政法人日本学生支援機構「貸与利率」/https://www.jasso.go.jp/shogakukin/about/taiyo/taiyo_2shu/riritsu/index.html
ただし、「何を学ぶか」によってリターンは大きく変わります。目的なく大学に通い、漫然と4年間を過ごすための借金は、良い借金とは呼べません。奨学金の善し悪しは、金額ではなく、その先に何を得るかの解像度で決まります。
悪い借金の例
① リボ払い──「考えない」ことの代償
悪い借金の筆頭が、リボルビング払い(リボ払い)です。
リボ払いの年利は15%前後。住宅ローンの約20〜50倍です。「毎月の支払いが一定だから楽」という触れ込みですが、その裏では元本がほとんど減らず、利息が雪だるま式に膨らんでいきます。
【リボ払いの危険性──具体例】
10万円をリボ払い(毎月5,000円返済・年利15%)にした場合:
- 完済まで:約24ヶ月
- 支払総額:約114,000円
- 利息だけで約14,000円の損失
10万円でこの差。これが50万円、100万円になると、利息は数十万円規模に膨らみます。
リボ払いの本質的な問題は、金利の高さだけではありません。「いくら借りているか、考えなくて済む仕組み」になっていることです。毎月の支払額が一定だから、借金の総額が見えなくなる。見えないから、さらに買い物を重ねる。気づいたときには、返済不能の状態に陥っている。
これは「節約と浪費の区別がつかない」問題と同じ構造です。判断基準を持たない人が、仕組みによって搾取される。
② 生活費の補填としての借金
収入を超えた生活水準を維持するための借金は、悪い借金の典型です。収入が月25万円なのに月30万円の生活をして、差額をカードローンで埋める。これを続ければ、借金は確実に膨らみます。
この構造は、宝くじの当選者が破産するメカニズムと同じです。ラチェット効果──一度上げた生活水準は下げられない。収入が借金で「水増し」されている状態に慣れてしまうと、元に戻すのは想像以上に困難です。
③ 見栄のための借金
高級車、ブランド品、身の丈を超えた結婚式──他人に見せるための消費は、借りた瞬間から価値が下がり続けます。新車は購入した瞬間に価値の20%が消えるとされています。これらの借金は、資産を生まず、自己肯定感も長続きしない。残るのは返済義務だけです。
「借りない」ことの隠れたコスト
ここまで読んで、「やっぱり借金はしないほうがいい」と感じた方もいるかもしれません。確かに、悪い借金は避けるべきです。
しかし、「すべての借金を避ける」という判断にも、見えないコストがあることは知っておくべきです。
たとえば、自己投資のチャンスが目の前にあるのに、「借金が怖いから」と見送る。起業のタイミングが来ているのに、「貯金が貯まるまで待とう」と先延ばしにする。数年後に「あのとき投資していれば」と後悔する。
経済学では、これを機会費用(Opportunity Cost)と呼びます。「借りなかったこと」によって失われた可能性の価値です。
100万円の自己投資を借金で行い、3年後に月収が10万円上がったとします。年間120万円の増収。5年で600万円。100万円の借金は、5年で600万円のリターンを生んだことになる。一方、「借金が怖いから」と見送っていたら、その600万円は存在しなかった。
もちろん、すべての投資が成功するわけではありません。しかし、「借りること自体をリスクと見なす」発想は、実は最大のリスクを見落としている可能性がある──この視点は持っておく価値があります。
借金を全否定する人ほど、「今ある貯金を減らさないこと」だけが安全策だと信じています。けれど、貯金を守ることと、未来の収入を増やすことは別の話です。良い借金を恐れてチャンスを見送った結果、数年後に「あの自己投資をしていれば」と後悔するのは、本当の安全策とは言えません。
良い借金か悪い借金か──5つの判断基準
最後に、目の前の借金が「良い借金」か「悪い借金」かを見分けるための判断基準を共有します。
【良い借金 vs 悪い借金──5つの判断基準】
- リターンがあるか?──借りたお金は、将来的にそれ以上の価値(収入・スキル・資産)を生むか?
- 返済計画が現実的か?──月々の返済額は、生活を圧迫しない範囲に収まっているか?
- 金利は適正か?──住宅ローン(0.3〜1%)や奨学金(0.5%前後)は適正。リボ払い(15%)やカードローン(3〜18%)は危険水域
- 「消費」か「投資」か?──そのお金は、使った瞬間に価値がなくなるか、時間とともに価値を生むか?
- 感情で決めていないか?──「欲しいから」「みんな持っているから」ではなく、冷静な判断で決められているか?
5つすべてを満たす必要はありません。ただ、ひとつも考えずに借りることだけは、絶対に避けるべきです。考えない借金は、すべて悪い借金になります。
借金の本質は「未来の自分への信頼」である
良い借金の根底にあるのは、「未来の自分は、今の自分より成長している」という信頼です。
今は返せない額でも、3年後の自分なら返せる。なぜなら、この借金で手に入れる知識やスキルが、自分を成長させてくれるから。──これが、良い借金の本質です。
逆に、悪い借金は「今の自分の欲望」に負けた結果です。未来の自分に返済という負担を押しつけ、今の快楽を先に受け取る。未来の自分を信じているのではなく、未来の自分を犠牲にしている。
この違いを理解しているかどうかで、借金に対する向き合い方は根本から変わります。
「借金=悪」と思い込んでいる人は、チャンスが来ても動けません。「すべての借金=OK」と思っている人は、破滅します。大切なのは、判断基準を持つことです。
お金との関係をどう築くか。それは、人生の成功をどう定義するかにも深く関わっています。
お金と時間の使い方を見直し、自分らしく生きるためのヒントは、著書(電子書籍)『あ、常識とかいいんで、とりあえず自由ください。』にも綴っています。下記より無料でお読みいただけます。
また、雇用という一本道だけに頼らず収入の軸をつくり、生活費やリスクとの距離感を自分で調整してきた方々へのインタビューをまとめています。「借りる・借りない」の前に立つ人生の設計図を誰が描くか──その問いを具体の声で追いかけたいときに、併せてご覧いただければと思います。

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