子供にお金の教育をしていますか?──この問いに、日本の親の64%は「教えたことがない」と答えています。
学校で金融教育を受けた認識のある日本人は、わずか7.2%。アメリカの21%と比べて約3分の1です。お金について何も教えられないまま社会に出た子供たちは、お金の不安に苛まれ、詐欺に遭い、浪費を繰り返すリスクを背負います。
これは単なる「教育不足」ではありません。私はこれを、構造的なネグレクトだと考えています。
参考:日本経済新聞「親悩ます金融教育 教えたことない64%」2024年5月26日/https://www.nikkei.com/article/DGKKZO80940320V20C24A5MM0000/
参考:金融広報中央委員会「金融リテラシー調査 2019年」/https://www.shiruporuto.jp/public/document/container/literacy_chosa/2019/
なぜ「虐待に等しい」と言うのか
「虐待」という言葉に、違和感を覚えた方もいるかもしれません。暴力を振るうわけでも、食事を与えないわけでもない。お金の話をしないだけで「虐待」とは大げさではないか──そう感じるのは自然なことです。
けれど、少し考えてみてください。
子供が18歳で社会に出たとき、最初に直面するのは「お金」の問題です。家賃、食費、税金、保険、クレジットカード、奨学金の返済。これらに対処するための知識を、まったく持たないまま放り出される。
交通ルールを教えないまま道路に出す親はいません。泳ぎ方を教えないまま海に放り込む親もいません。けれど、お金のルールを教えないまま社会に送り出すことは、日本では「普通のこと」として許容されています。
ネグレクト(養育放棄)の定義には、身体的な放棄だけでなく、「子供が社会で生きていくために必要なスキルや知識を提供しないこと」も含まれます。お金の知識は、まさに「社会で生きるために不可欠なスキル」です。
だからこそ、お金の教育をしないことは──意図的であろうとなかろうと──構造的なネグレクトなのです。
日本でお金の教育が遅れている本当の理由
では、なぜ日本ではお金の教育がここまで遅れているのか。「お金は汚い」という、日本の文化的タブーがよく理由に挙げられますが、問題はもっと根深い構造にあります。
理由①:親自身がお金の教育を受けていない
子供にお金を教えられない最大の理由は、親自身が教わっていないからです。
戦後の日本では、「真面目に働いて、コツコツ貯金すれば報われる」という価値観が長く支配してきました。終身雇用と年功序列という制度が機能している間は、お金について深く考えなくても生きていけた。銀行に預けておけば利息がつき、会社に勤めていれば退職金がもらえた。
その時代の親が、子供に教えられるのは「貯金しなさい」だけです。投資の考え方、複利の力、保険の仕組み、税金の構造──これらを教えられる親は、今でもごく少数です。
つまり、教えないのではなく、教えられない。知識がないから伝えようがない。これは個人の責任ではなく、世代を超えた構造的な問題です。
理由②:「お金の話=はしたない」という文化
日本には、お金の話をタブー視する根強い文化があります。
その起源は、江戸時代の身分制度にまで遡ります。士農工商の序列において、商人は最下位に位置づけられていた。「お金を稼ぐこと」は卑しいこととされ、「清貧」が美徳とされてきました。
この価値観は、令和の今も無意識のうちに受け継がれています。食卓で「今月の収入はいくらか」を話し合う家庭はほとんどありません。子供が「うちはお金持ちなの?」と聞けば、「そういう話はしなくていい」とたしなめられる。
結果、子供は「お金のことは考えてはいけない」というメッセージを受け取って育ちます。考えてはいけないものについて、正しい判断ができるようになるはずがありません。
理由③:学校教育だけでは足りない
2022年4月から、高校の家庭科で金融教育が必修化されました。株式や投資信託、資産形成の基本が授業に組み込まれたのは、大きな前進です。
参考:文部科学省「高等学校学習指導要領(平成30年告示)」/https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/1384661.htm
しかし、学校だけで金融リテラシーが身につくかといえば、答えはノーです。
お金の判断力は、日常の中で繰り返し「選択」する経験から育つものです。教科書の知識だけで、スーパーでの衝動買いを防げるようにはなりません。クレジットカードの分割払いのリスクを体感することもできません。
学校は「知識のインプット」はできますが、「お金との付き合い方」を身体で覚えるのは、家庭の役割です。
お金の教育を受けなかった子供は、どうなるのか
お金の教育を受けないまま大人になった人は、どうなるか。答えは、すでにデータが示しています。
リスク①:「お金の不安」から一生逃れられない
お金について学ぶ機会がなかった人は、「お金の不安」を抱え続けます。貯金がいくらあっても足りない気がする。将来が漠然と怖い。この不安の正体は、お金の「量」の問題ではなく、お金の「構造」を理解していないことから来ています。
リスク②:お金との「関係」を間違える
お金の教育がない人は、お金を「安心の道具」ではなく「自分の価値を証明するもの」として捉えやすくなります。年収で自分の価値を測り、ブランド品で自己肯定感を補い、浪費と後悔を繰り返す。
宝くじの高額当選者が破産するのも、根底にあるのは「お金との関係性」の歪みです。そしてその歪みの種は、多くの場合、子供時代に蒔かれています。
リスク③:「節約」と「浪費」の区別がつかない
お金の教育を受けていない人は、「安いもの=節約」「高いもの=浪費」と短絡的に判断しがちです。しかし実際には、安いものを買い続けた結果、総コストが高くなるケースは少なくありません。価値判断の基準を持たないまま社会に出ることは、一生分の損失に直結します。
リスク④:詐欺や搾取に対して無防備になる
金融リテラシーが低い人は、投資詐欺、マルチ商法、リボ払いの罠といったものに対する抵抗力を持ちません。「絶対に儲かる」「元本保証」──こうした言葉に疑いを持てるかどうかは、知識の有無で決まります。知識がなければ、判断基準もない。判断基準がなければ、他人の言葉を鵜呑みにするしかありません。
たとえば「借金」に対しても、良い借金と悪い借金を見分ける判断基準を持っているかどうかで、人生の選択肢は大きく変わります。
『ドラゴン桜』でも描かれていたように、「知らないこと」自体が搾取される構造をつくります。
「教えられない」を「教えられる」に変えるために
ここまで読んで、「自分もお金の教育を受けていない。子供に何を教えればいいかわからない」と感じた方もいるかもしれません。
安心してください。完璧な金融知識は必要ありません。大切なのは、「お金について一緒に考える」文化を家庭に作ることです。
実践①:お金を「見える化」する
キャッシュレス化が進む現代、子供にとってお金は「目に見えないもの」になりつつあります。スマホをかざすだけで買い物ができる世界では、「おつり」の概念すら知らない子供も出てきています。
まずは、お金を物理的に見せることから始めてみてください。現金でお小遣いを渡す。一緒に買い物に行き、支払いの場面を見せる。「この商品は、パパ(ママ)が何時間働いたお金で買えるんだよ」と伝える。それだけで、お金に対する「実感」は大きく変わります。
実践②:お小遣いを「経営体験」にする
お小遣いは、子供にとって最初の「資産管理」の機会です。
【お小遣いの与え方──3つのアプローチ】
- 定額制:毎月決まった額を渡す。計画的に使う力を養う
- 対価制:お手伝いの報酬として渡す。「稼ぐ」感覚を育てる
- 混合型:定額+対価のハイブリッド。基礎と応用を同時に学べる
どの方法を選ぶかより大切なのは、使い道を子供自身に決めさせることです。親が口を出しすぎると、「自分で考えて、自分で決める」という経験が奪われてしまいます。
失敗してもいい。無駄遣いをして後悔する経験こそが、最も効果的な金融教育です。500円で失敗する経験は、将来、50万円で失敗することを防いでくれます。
実践③:「お金の対話」を日常にする
最も重要な実践は、家庭の中でお金について自然に話せる空気を作ることです。
「なぜこの商品を選んだのか」「このサービスにはいくらの価値があるか」「我が家のお金は、どういう仕組みで入ってきているのか」──こうした対話の積み重ねが、子供の中に「お金について考えることは自然なこと」という基盤を作ります。
お金の話をタブーにしないこと。正解を教えることより、一緒に考えること。それだけで、あなたの子供は、お金の教育を受けなかった世代とはまったく違う判断力を持つようになります。
実践④:親自身が学び直す
子供に教える前に、まず自分が学ぶ。これが最も本質的なアプローチです。
お金の使い方を見直すこと、自己投資の価値を理解すること、時間とお金の関係を考え直すこと──これらは、子供に伝える前に、まず自分の中に落とし込む必要があります。
お金について学び直すことは、年齢に関係なく、いつからでもできます。むしろ、大人になってから学び直した人のほうが、子供に対してリアルな言葉で伝えられる。「自分はこうだったから、あなたにはこう伝えたい」──その正直さが、子供の心に最も響きます。
お金の教育は、「人生の選択肢」を渡すこと
最後に、ひとつだけ伝えたいことがあります。
お金の教育とは、「稼ぎ方」や「節約の仕方」を教えることではありません。お金に振り回されずに生きる力を渡すことです。
お金の構造を理解している人は、お金に支配されません。お金の不安に押しつぶされることも、見栄のために散財することも、詐欺に騙されることもない。お金を「手段」として正しく位置づけ、自分の人生を自分でデザインできるようになる。
それはつまり、人生の選択肢を増やすことにほかなりません。
時間とお金のどちらが大事か。その問いの答えを、子供が自分の頭で考えられるようにすること。それが、親にできる最大の贈り物ではないでしょうか。
「成功」の定義すら、自分で選べるようになる。お金の教育は、そのための土台です。
お金と時間の使い方を見直し、自分らしく生きるためのヒントは、著書(電子書籍)『あ、常識とかいいんで、とりあえず自由ください。』にも綴っています。下記より無料でお読みいただけます。
さまざまなスタイルで自由な生き方を実践している方々のインタビューも、参考にしていただければと思います。

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