人生という未完成のラフ案を、自分の手で描き進める

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インタビュー

「No worries」の風に吹かれて。
Zoom越しに届くバイロンベイの光。

菅野瑞希さん

ハイブリッドなスローライフ

バイロンベイ ライトハウス

菅野瑞希さんが選んだ「場所を選ばない」生き方

パソコンの画面が明るく灯り、数千キロの距離を一瞬で飛び越える。ディスプレイの向こう側には、日本ではまだ夜が明けきらぬ時間、既に南半球の強烈な太陽を背に受けた菅野瑞希さんの笑顔がありました。マイクが拾う微かな波音と、彼女の傍らに置かれた摘みたてのハーブの息吹。そこは、オーストラリア最東端の街、バイロンベイです。

かつて東京の広告代理店で、分刻みのスケジュールと数万人規模のイベントを指揮していた彼女が、なぜ異国の地で「土と波、そして言葉」と共に生きる道を選んだのか。Studio Rough Style編集部が、オンラインでの対話を通じて、彼女を救った「No worries」という哲学と、国境を越えて実践する「ハイブリッドなスローライフ」の真髄に迫ります。

1. 摩天楼の影で、呼吸の仕方を忘れていった日々

編集部:瑞希さん、本日は時差のある中、お時間をいただきありがとうございます。画面越しでも、そちらの光の強さと空気の透明感が伝わってきますね。まずは、瑞希さんがかつて東京で駆け抜けていた「イベントプロデュース」という世界について、改めてお聞かせいただけますか?

菅野:ありがとうございます。こうしてバイロンベイの自宅から日本の Studio Rough Style さんと繋がれるのも、デジタルビジネスの恩恵ですね。以前の私は、東京の大手広告代理店で、国際的なファッションショーや大型音楽フェスの制作進行を担当していました。数万人の観衆を動かし、1秒の狂いも許されないタイムテーブルを管理する。華やかなスポットライトの裏側で、常にアドレナリンを出し続け、神経を研ぎ澄ます毎日でした。当時はそれが自分の『居場所』だと信じて疑いませんでしたし、周囲からも成功者として見られていたと思います。

編集部:キャリアの絶頂にいながら、どのような瞬間に「限界」を感じたのでしょうか。

菅野:一番は、自分の人生が『自分のものではなくなっていた』ことです。週末も祝日もなく、深夜のメール対応は当たり前。どれだけプロジェクトを成功させても、翌日には次の数字に追われる。ある朝、満員電車の窓に映った自分の顔を見たとき、驚くほど目が濁っていて、生気が失われていることに気づいたんです。何万人もの人を笑顔にしているはずの自分が、一番笑えていない。その残酷な矛盾に気づいた瞬間、積み上げてきた全てが砂の城のように崩れていくのを感じました。

  • 時間の搾取: 24時間365日、仕事の通知に怯え、深い休息を知らない脳の疲弊。
  • 感覚の麻痺: 人工的な照明と音響の中に閉じ込められ、季節の移ろいや自然の香りを忘れてしまった肉体の悲鳴。
  • 使い捨ての創造性: 一過性の熱狂を作るために、自分自身の本質的なエネルギーを切り売りし続ける虚しさ。
  • 人間関係の希薄さ: 利害関係だけで繋がるネットワーク。本音を語り合える静かな時間の欠如。

菅野:そんな時、逃げるように訪れたここバイロンベイで、一人のサーファーに出会いました。彼は波が良ければ仕事を休み、そうでなければ働く。そして口癖のように『No worries(なんとかなるさ)』と言うんです。その時、私を縛っていた『完璧でなければならない』という呪縛が、潮風と共に消えていくのを感じました。人生はもっと、自分勝手に、穏やかであっていい。そう確信して、3ヶ月後には退職届を出していました。

2. 「豪州の農園×日本のデジタル」という、知的な生存戦略

編集部:移住後、現地でハーブ農園を営みながら、日本のメディアでライターとしても活動されています。異国の地での「経済的自立」を、瑞希さんはどのように設計したのでしょうか。場所を選ばない働き方を実現するための、具体的な戦略を教えてください。

菅野:私は、単に『海外でバカンス』をしたかったわけではありません。自分の知性を活かして、複数の収益源を確保する『ポートフォリオ・ワーカー』としての自立を目指しました。オーストラリアの土に触れるアナログな労働と、日本のマーケットに向けたデジタルな資産構築。この両輪を回すことで、為替や景気に左右されない、強固な地盤を築いたんです。

編集部:具体的には、どのようなバランスでビジネスを構築しているのですか?

  1. 現地のオーガニック農園での修行: 週の半分は地域の農園で働き、オーストラリア独自のハーブ栽培技術を習得。肉体を動かすことで精神を再起動させ、実体のある価値を生み出す。
  2. デジタル資産の構築: トラベルライターとして、オーストラリアの『本物のスローライフ』を日本へ発信。記事が蓄積されるほど、それは寝ている間も収益を生む資産となる。
  3. 精密な集客戦略: 自分の発信する情報や製品を本当に必要としている層だけにターゲットを絞り込み。国境を越えた効率的なファン作りを自動化した。
  4. 価値のパッケージ化: ハーブの販売だけでなく、『バイロンベイの精神性』をコンテンツ化してオンラインで提供。モノではなく『物語』を売る仕組みを整えた。

菅野:大切なのは、一つの国、一つの仕事に依存しないことです。オーストラリアの豊かな自然を享受しながら、日本の知的なマーケットで稼ぐ。このハイブリッドな働き方が、私の精神的な安定と、会社員時代を遥かに上回る自由な時間を生み出してくれました。

3. 「No worries」の精神で、他者の評価という重力を振り払う

編集部:海外で新しい生き方を始めると、日本にいる周囲からは『心配』や『批判』の声もあったかと思います。瑞希さんは、それらにどう向き合っていますか?

菅野:移住当初は『キャリアを捨てて逃げただけだ』『すぐに現実に戻ることになる』と何度も言われました。でも、現地の友人たちが教えてくれた『No worries』の精神が私を助けてくれました。それは単なる楽観主義ではなく、『自分にとっての幸せを定義できるのは自分だけ。他者の評価という重力に縛られる必要はない』という、強い自己肯定の哲学です。

編集部:その「境界線」を引けたことが、瑞希さんの自由を支えているのですね。

菅野:はい。私は今、あえて人付き合いを『共鳴できる範囲』に留めています。かつてのように名刺を配り歩き、顔色を伺う必要はありません。私の価値観に共鳴してくれる読者、そして、共に波を待つ現地の仲間たち。その小さな、でも深い繋がりのある世界を大切にすること。それが、山下さんの提唱する『個の尊重』の形なのだと感じています。外側のノイズは、広大な海に消える泡のようなもの。耳を澄ませるべきは、自分の内側から湧き上がる『心地よさ』の声だけなんです。

4. 潮の満ち引きと、ハーブの息吹。五感を再起動させる「自然のテンポ」

編集部:今の瑞希さんの1日は、どのようなリズムで流れているのでしょうか?かつての満員電車に揺られていた日々とは、全く違う景色が見えているはずですが。

菅野:今の私の時計は、太陽の高さと、潮の満ち引きそのものです。スケジュール帳に予定を書き込むのをやめ、その日の風の匂いを感じて、何をするかを決めています。

  • 夜明け: 近くのビーチへ向かいます。サーフボードの上に座り、水平線から昇る太陽を待つ。海と一体になるこの時間が、私の心身を最も深い場所から浄化してくれます。
  • 午前: ハーブ園での作業。苗を植え、雑草を抜き、収穫する。オーストラリアの力強い土に触れることで、思考が驚くほどクリアになり、新しい記事のアイデアが次々と湧いてきます。
  • 午後: 涼しい風が通るテラスでライティング。デジタルの知性を使って、私の体験を日本、そして世界へ届ける。この知的な作業が、私の自由を維持するためのインフラです。
  • 夕刻: 庭で採れたレモンマートルで淹れたお茶を飲みながら、静かに読書。ハーブの香りと南十字星の輝きがあれば、魂は十分に満たされます。

菅野:夏は照りつける太陽の下で汗を流し、冬は冷たい潮風に身を縮める。自然の厳しさを受け入れ、その中でいかに心地よく生きるか。デジタルビジネスという『盾』があるからこそ、私はこのアナログな日常を、一瞬も漏らさず享受できる。このバランスこそが、私が辿り着いた究極のスローライフです。私の人生は、ただ、毎日が新しい発見に満ちた『未完の旅』なんです。

5. 自由を求めるあなたへ|菅野瑞希さんからのメッセージ

編集部:最後に、今の社会に息苦しさを感じ、自分の「主権」を失いかけている方へメッセージをお願いします。

菅野:周囲の雑音に耳を傾けて生きるのを、一度やめてみてください。世の中が求める完璧な姿に自分を合わせようとすれば、あなたの魂はいつか枯渇します。大切なのは、自分の手で土に触れ、自分の頭で考え、自分だけの『心地よさ』を見つけること。それだけです。

  • 「No worries」を心に: 完璧を目指すのをやめたとき、新しい可能性の扉が開きます。
  • 知性を資産に変える: あなたの経験や感性を、場所を選ばずに機能する『仕組み』へと昇華させてください。
  • 孤独を誇りに思う: 集団から離れ、一人になったとき、初めてあなたの本当の声が聞こえてきます。
  • 好きなことで生きる覚悟: それは単なるわがままではなく、自分という生命を最も美しく輝かせるための、誠実な選択です。

菅野:重い荷物を下ろし、耳を澄ませてみてください。あなたの中に、まだ誰にも語られていない、美しい物語が眠っているはずです。共にその物語を紡ぎ始めましょう。あなたがあなた自身の人生の、最高の語り手になれる日を願っています。

(取材・構成:Studio Rough Style 編集部)

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